神殺しのクロノスタシスⅢ
チョコアイスしか選択肢がないとはいえ、休憩タイムが来たので。

天音と、精神世界でイチャつき中だったナジュも呼んできて。

学院長室に集まり、皆でチョコアイスを食べていると。

ふと、令月が言った。
 
「…ところで」

「どうした?」

「この間、ヴァルシーナが攻めてきたときに」

「?」

「ポーカーっていうゲームをやってたよね?」

…あ。

令月が言わんとすることを、俺も思い出した。

「あれ、負けた人は焼肉奢るんだよね?」

「…」

満面笑みで、チョコアイスを頬張っていた、

シルナの手が、ピタリと止まった。

思い出したな、お前も。

そうだよ。

どさくさに紛れて、なかったことにしてもらっちゃ困るな。

「そういえば言ってましたね。危うく反故にされるところでした」

「そうそう、見事に十連敗した、無様な人がいますからね〜。奢ってもらわないと困りますね」

「うっ、ぐ…き、君達…。そういうことは忘れないね…」

まぁな。

「『一度した約束はちゃんと守りましょう』って、全校集会で言ってたよな?」

「ぐぬぬ…」

今こそ、有言実行のときだ。

「学院長が、約束を破る訳にはいかないよなぁ?」

「うぅ…。分かったよ…」

宜しい。

よく思い出したぞ、令月。でかした。

しかし。

「お待ち下さい」

イレースが、ストップをかけた。

「…!イレースちゃん!私を庇ってくれ、」

「学院長が約束を履行するのは、当然の義務として」

「…」

残念だったな。

庇ってはくれないみたいだぞ。

「遊びに行くのは、二人の宿題が終わってからです」

ピシャリとそう言うイレース。

あー…。そういうことね。

遊ぶのは良いが、やるべきことはちゃんとやってから遊べ、って。

「えぇー…。いーじゃん、そんなの別に…」

「駄目です」

「僕は別に良いよ。もうほとんど終わってるし」

と、令月。

「嘘でしょ。『八千代』いつの間に?」

「え?夜とか…。筋トレの合間に」

何をやってるんだ。

夜は寝ろ。成長期だろ。

「『八千代』に先を越されるなんて。わかったよー…。俺も今夜中に終わらせるよ」

「徹夜は良いが、ちゃんと寝ろよ?」

すぐりくらいの歳だったら…。せめて、日付が変わる時間くらいには。

しかし。

「あはは、だいじょーぶだいじょーぶ。暗殺者時代は、2日寝ないとかふつーだったし。余裕」

何が余裕だ。

「馬鹿。ちゃんと寝ろ」

夜中に抜き打ちチェックしに行くぞ。

強制的に、ベッドに縛り付けてやろうか。

いや駄目だ。素人が縛ったくらいじゃ、こいつ絶対脱出する。

「…ともあれ」

と、ナジュがチョコアイスを口に入れて言った。

「お二人の宿題が終わったら、学院長の奢りで焼肉パーティってことで!」

「精々、財布を厚くしておくんですね」

「あうぅ…」

シルナには悪いが。

俺達の夏休みは、まだ終わっていないぞ。

< 634 / 822 >

この作品をシェア

pagetop