神殺しのクロノスタシスⅢ
夕方頃。

「あーよく寝たよく寝た。学院長、焼肉奢ってー」

そろそろすぐりも呼びに行って、皆で焼肉食べに行こうか、と。

話していたところに、自分からやってくるすぐり。

ちゃっかりしてんな。

「あぅぅ…。み、皆本当に行くの…?」

この期に及んで、及び腰のシルナ。

「行くに決まってるでしょう」

「そういう約束だったから…」

「この学院長、『焼肉屋さんには、デザートがそんなにないんだよなぁ…』とかいう理由で渋ってるだけなので、特に気にしなくて良いですよ皆さん」

「うわぁぁぁんナジュ君が虐めるーっ!」

そんなこと考えてるからだろ。

焼肉屋は、まぁ店にもよるが、確かにあまりデザートの種類が豊富とは言えないな。

少なくとも、以前行った回転寿司ほどではない。

だから、シルナが乗り気じゃないのだ。

しかし、それとこれとは話が別。

「シルナ」

「羽久…」

「『一度約束したことは、ちゃんと守りましょう』だったな?」

「ふぇぇぇぇ」

他でもない学院長が、約束を反故にする訳にはいかんよなぁ。

「敗者の責務、って奴だ。しっかり払うもの払ってもらおうか」

今回俺達が行く焼肉屋は、所謂定額食べ放題、の庶民派なお店ではない。

一皿いくら、でちゃんと勘定される、お会計が恐ろしい店だ。

覚悟しておくんだな、シルナ。

「焼肉屋だって。どんなところか楽しみだね、『八千歳』」

「やっぱりその場で捌くのかなー?その方が新鮮だもんねー」

「ほら、チビ達も楽しみにしてるぞ」

「うぐぐ…」

それと、すぐり。

さすがに、客の前では捌かんだろ。

厨房でやってくれ、厨房で。

「…分かった。分かったよ…。行くよ…」

シルナ、とうとう折れる。
 
そう来なくっちゃな。

「よし、皆でシルナの財布をすっからかんにしてやろうぜ」

「お任せください。やるなら徹底的にやりましょう」

「霜降り肉とか死ぬほど頼んでやりましょうね」

「うわぁぁぁん、天音君、助けてぇぇぇぇ」

「え、えっと…。元気出してください、学院長…」

あまりに容赦のない大人達に、シルナは情けなくも、天音に泣きついていた。

天音だけは優しくて良かったな、シルナ。
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