神殺しのクロノスタシスⅢ
「…」 

満面笑みのシルナを見て。

すぐりの、この微妙な顔。

そりゃそんな顔にもなるよ。

こいつ何考えてるんだろうなぁ、とか思ってんだろうな。

「…正気なの?馬鹿なの?」

この反応である。

「安心しろ。どっちもだ」

「成程」

「ちょっと!それで納得しないで!」

まぁ、でも仕方ないだろう。

令月のときと同じだ。

「すぐり、お前はルーデュニア国籍も持たない、不法入国者だ。おまけに未成年」

「まぁ、そうだねー」

「ついでに『アメノミコト』の暗殺者という、特殊な生まれだ」

「そうだねー」

「その点令月も同じだったから、令月と同じく、保護も兼ねて、イーニシュフェルトで預かるってことだ」

「…ふーん…」

何だ、その顔は。

「不満か?」

「別にぃ?ただ、『八千代』と同じ成り行きで、同じ屋根の下で暮らすことになるのかと思うと、虫酸が走るだけ」

「…」

『八千代』、『八千代』って…。

「そんなに嫌いか?令月のこと」

「嫌いじゃないよ。ただ、存在が癪に障るってだけで」

それを嫌いって言うんじゃないのか。

まぁ、『アメノミコト』にいたときから、ライバル同士だったみたいだし。

今回は、暗殺のターゲットだった訳で。

しかも、返り討ちに遭って死にかけていた訳で。

…とはいえ、あの状況じゃ、相討ちだったが。

結局『八千代』…令月には勝てなかったってことが証明されちゃって。

すぐりにも、思うところがあるのだろう。

「大丈夫だよ、すぐり君。イーニシュフェルトでいっぱい勉強すれば、令月君より強くなれるかもしれないよ」

「ふーん…。ここにいれば、『八千代』より強くしてくれる?」

「それはどうかな。君の努力次第ってところかな」

勿論、令月の方も努力を重ねてるから。

結局のところどちらが強くなるかは、分からないが。

とにかく。

「イーニシュフェルト魔導学院にようこそ、花曇すぐり君」

「宜しく」

こうして、イーニシュフェルト魔導学院に。

元『アメノミコト』の暗殺者だった生徒がまた一人、増えた。


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