神殺しのクロノスタシスⅢ
花曇すぐりは、現在13歳だと言った。

つまり、令月より一つ下。

そんな訳なので、二年生に編入学することになった。

編入学と、言うは易しだが。

新入生を迎え入れる手続きより、ずっと面倒臭い。

おまけにすぐりには、ルーデュニア国籍もない訳だし。

しかし、そこはイレースもお手の物。

すぐりをイーニシュフェルトに連れてきたときから、こうなることは予測済みだったそうで。

特に焦ることもなく、てきぱき手続きを進めていた。

イレース曰く、「あの学院長の考えることなんて、所詮そんなものです」とのこと。

いやはや、頭が上がらない。

とはいえ、今回は令月という前例も経験しているし。

しかもすぐりは、令月と違って、魔導適性を持っている。

力魔法に限らず、炎魔法でも雷魔法でも、ある程度は使えるのだ。

普段は、魔力で作ったあの糸…。ワイヤーみたいなものを使っていたそうだが。

あれはあまりにも特殊過ぎるので、学院では封印してもらうことにした。

あの魔法は、人を殺す為の魔法だ。

イーニシュフェルト魔導学院で使うべき魔法ではない。

学生寮の空き部屋をあてがい、二年Aクラスに編入させるよう、手続きを進め。

とりあえず、明後日辺りから授業に出てもらうことにして、話はついた。

意外と、すぐりは従順だった。

シルナに絆されたと言うより、「もう負けたんだから、好きにしてくれれば良い」っていうスタイル。

何となく投げ槍な感じがするので、そこはこれから、少しずつ軌道修正してやらなければならない。

更に、令月で学んだことだが。

『アメノミコト』で育った暗殺者の子供は、知識が物凄く偏っている。

令月しかり、すぐりもまたしかりだった。

だがかろうじて、すぐりは鉛筆を使うことを了承した。

令月が頑なに、墨と筆を使うものだから。

すぐりもその方が良いのかなと思って、本人に聞いてみると。

「うん、筆の方が良い」

と、即答。

やはりな。

しかし、

「そうか。令月も頑なに筆ばっか使ってるよ」

と、俺がポツリと溢すと。

「え?『八千代』が?じゃあ俺は鉛筆使うよ」

令月に対して、謎の対抗意識を燃やしているらしいすぐり。

令月が筆を使ってると聞いて、自分は鉛筆を使うことにしたらしい。

しかし、無理して使ってるらしく。

ちょっと名前書いてもらったら、物凄く字が汚かった。

が、本人は絶対令月には倣わないと決めているらしく。

慣れないものでも、意地でも使いこなしてみせるとのこと。

まぁ、あれだ。

上昇志向があるのは、良いことだ。





…で、それはともかく。

「れ・い・げ・つ・く~ん」

滅多に怒らない、ってか基本怒ることのないシルナが。

今日ばかりは珍しく、怒りの笑みを浮かべていた。

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