神殺しのクロノスタシスⅢ
「イレース…。お前、大人気ないぞ…」

「勝負の世界に、大人も子供もありません。むしろ若いうちから、敗北を知っておくべきです」

なんか良いこと言ってる。

「子供の頃から敗北を知らないまま大人になると、あんな風になるんです」

イレースは、視線だけでナジュを睨んだ。

あー…。うん、そうだな…。

「ちょっと。僕立派な大人じゃないですか。何ですか羽久さんまで。『成程、納得』じゃないですよ。納得しないで否定してくださいよ」

うるせぇ。

成程、若いうちから挫折を知らないと、あんな大人になるんだな。

それは良くない。

「そしてあの子達は、何だかんだ優秀なせいで、敗北を知りません」

「…」

…すぐりは割と知ってるんじゃね?

令月はともかくとして。

「それに二人の性格からして、『勝たせてもらった』勝利では、納得しないでしょう」

「…うーん…」

…そうかも。

すぐりは勿論のこと、令月もあれで、割とプライド高いからな。

子供扱いされるのも、嫌がってるみたいだし。

子供の癖にな。

「だったらここは大人として、あくまで真剣勝負をするべきです」

「…」

…凄い良いこと言ってるんだけど。

やっぱり、ちょっと大人気ないなーって思うの、俺だけ?

イレースらしいと言えばイレースらしいが。

…そもそも、別段勝負にする必要なくね?

線香花火がいつ命尽きるかなんて、本人の意志関係ないだろ。

すると。

「あ、死んだ」

「えっ、あ」

先に、すぐりの線香花火がたらいの中に落ち。

それに動揺した令月が身動ぎし、その僅かな揺らぎで。

令月の線香花火も、後を追うように脱落。

…ある意味、俺とシルナと同じ死に方してんな。

「馬鹿〜もう」

「落っこちちゃった…」

「俺のが落ちたくらいで、動揺しないでよ」

「だって、『八千歳』のが落ちてびっくりして」

「何でそーなるのさー」

何でそうなるのかって?

それは簡単な話。

俺とシルナの線香花火が、同時に落ちたのと同じだ。

お前らもまた、一蓮托生ってことだよ。

そして。

「あ、落ちましたね」

何だかんだ、微動だにしない作戦で、しぶとく生き延びたイレースの線香花火が。

最後の輝きを放って、ポトンとたらいの中に落ちた。

…後に残るのは、暗闇と静寂。

そして、蚊取り線香の煙だけ。

…終わっちゃったな。
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