神殺しのクロノスタシスⅢ
―――――――…花火を終えて、追い返されるように学生寮に帰りながら。

俺は、隣を歩く『八千代』をちらりと見た。

「…?何?」

「いや、別にー…」

何だか、不思議な光景だなーと思って。

改めて考えてみるとさ。

つい半年前の自分に、「半年後、君、『八千代』の隣を歩いてるよ」って言ったら。

絶対信じないだろうなぁ。

ついでに、「イーニシュフェルト魔導学院に入って、クラスメイトの女の子を好きになってるよ」とか言ったら。

それ、何処の世界線の話?って思っただろうなぁ。

今だって、朝起きたときとか。

「俺、何でこんなところにいるんだろう?」って思うもんなー。

自分が『八千代』と和解するとか、それどころか仲良くなってるとか。

自分が暗殺者やめて、平和な世界で、大人に守られながら生きてるとか。

そんな日常が堪らなく大事で、命をとしてでも守りたいと思ってるとか。

全然想像出来なかったもんな。

…人を殺す以外、何も出来ない自分だと思ってたのに。

「ねー、『八千代』はさー」

「?」

「散々無慈悲に人を殺してきた人間が、平和に幸せに生きるとか、足洗って罪を償って、今度は人を守る側になるとか」

「…」

「そういう綺麗事が、俺達に許されるって、本気で思ってる?」

大人達に聞いても、当てにならない答えしか返ってこないもんなー。

子供には、子供にしか分からない気持ちがあるんだってこと。

大人は知らないんだよ。おかしいよね、自分だって昔は子供だった癖に。
 
「俺達がいくら反省して、改心して、これから大勢の命を救ったって…。奪われた命は、返ってこないのにね」

「…だからこそ、じゃない?」

うん?

「どーいう意味?」

「僕達が何をしても、失われた命は戻ってこない…。だからこれ以上、失われる命を一つでも失わせない為に、僕達は生きるんじゃない?」

…。

「僕達の罪は、多分死んでも許されない。なら、生きて償うしかないんだよ。誰にも許されなくても。それが…生き残ることを許された、僕達の義務だ」

義務…義務か。

「義務ねー…。重いなぁ」

「一人で背負わなくて良いよ。僕が半分持つから」

成程。

二人でいると、そういうメリットもあるんだな。

「じゃあ、そうしよっか」

「うん。そうしよう」

罪でも。許されなくても。

価値がなくても。認められなくても。

幸せになる権利が、普通に生きる権利が、俺達にもあるのなら。

こんな世界でも。
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