神殺しのクロノスタシスⅢ
いきなり何だ、と思われるかもしれない。

俺も、生まれてからもう、何十年、何百年何千年。

それ以上にも長生きして、我ながらまぁよく生きたもんだと思う。

人生の酸いも甘いも、苦いも辛いも、その他の色んな味を経験した。

命の危機を感じたことだって、山ほどある。

特に…そうだな。

最近では、自称死神の名乗る、全身黒ずくめで、胸に青い薔薇のブローチをつけたマフィアの男。

あいつを相手に商売してたときなんか、内心いつ殺されるかと、ヒヤヒヤしたもんだ。

俺、魔導師なのにな。

長いこと生きてるが、普通の人間相手にあれほどびびったのも初めてだった。

長年生きてても、まだまだ新鮮なことがあるもんだな。

もう、大抵のことには驚かないつもりだったんだが。

今でも、学院内に飾ってある青薔薇のエンブレムを見る度、あいつを思い出して身体が震える。

…って、あの死神のことは、今は良い。

それより、俺の最近の悩みを聞いてくれ。

色んな世界の色んな国で、色んな組織に所属して色んなことをして、生きてきた俺だが。

現在は、ここルーデュニア聖王国の聖魔騎士団魔導部隊に所属し。

とある女の面倒を見るのが、俺の仕事である。

人の面倒を見るのは、別に不満ではない。

不得意って訳でもない。

無駄に長いこと生きてるのだ。

相手が年寄りだろうが、産まれたての赤ん坊だろうが、それなりに面倒は見られる。

色んな人間を見てきたからな。

いや、それでも、あの死神の面倒を見てくれと頼まれたら、それはお断りだが。

しかし、その死神級に面倒臭い相手の面倒を見るのが、今の俺の役目なのだ。

何が嬉しくて、こんなことに。

毎日のように、俺はそう考える。

この日も俺は、その女の部屋を訪ねた。

いつまでたっても起きてこなくて、まーだ寝てんのかと、起こしに来たら。

何故か部屋はもぬけの殻で、窓だけが開いて、カーテンがひらひらと揺らめいていた。

その光景を見た、俺の現在の気持ちを教えてやろう。

…何が嬉しくて、こんなことに?

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