神殺しのクロノスタシスⅢ
「…」

俺は男として、一体どういう反応をすれば良いのか。

そういうことは自分でやれ、出来ないならせめて同性の人間に頼め。

何故俺に頼む?

ここにいるからか?そうなのか?

「ジュリスはやくー」

急かすな。

今考えてるんだよ。

やるか、やらないか。

常識的に考えたら、駄目だ。

倫理的に考えても、駄目だ。

しかし。

こいつ相手に、まともな常識と倫理は通用しない。

俺は、本日四度目の溜め息をつき。

なるべく見ないようにしながら振り返り、ベリクリーデの後ろに回った。

「あのなぁ、そういうことは男に頼むこ、は!?」

「こは?」

俺は、紐が緩くなっている、というベリクリーデの下着を見て、目を見張った。

「おまっ…これ、でか過ぎだろ!」

思わず、そうツッコまずにはいられなかった。

胸が、じゃないぞ。

下着が。

もっとハッキリ言うと、ブラジャーのカップが。

左右に、小玉スイカくらいの分厚くて大きなカップが、でん、でん、とくっついていた。

ベリクリーデのバストサイズに、全然合ってない。

ブカブカにも程がある。

そんなに胸盛りたかったのか?いや、元々そんな小さくないだろお前。

「そりゃ紐が緩いのも当たり前だろ!つけてる意味ねぇじゃん!明らかにサイズ合ってないじゃないか!」

「…そうなの?じゃあ外そう」

「いや待て外すな!」

何ホックに手を伸ばそうとしてるんだ。

「?だってつけてる意味ないんでしょ?じゃあ外す」

「俺の見てないところで外せってことだよ!」

何が嬉しくて、お前の半裸を見せつけられなきゃならないんだ。

俺にそんな趣味はない。

ちょっと待て。落ち着け俺。冷静に話をしよう。

「お前、これ、つけてる意味分かってるか?」

「…?知らないけど、でも聖魔騎士団に来たときに、シュニィがこっそり呼び出して、『ブラジャーつけた方が良いですよ』って言ってきたから」

「そうかよ」

気を遣って、こっそり言ってくれたんだな、シュニィ。

つーかお前、それまではノーブラだったってことだな?

「で、買いに行ったんだけど」

うん。そこまでは偉い。

「どれ買ったら良いか分からなかったから、どうしようって思ってたら」

店員に聞いたか?

「大は小を兼ねるかなと思って、売り場にある一番大きいのを買った」

ただの馬鹿だった。

確かに世の中、大は小を兼ねることもあるが。

過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉もあってな?

お前のこれは、明らかにでか過ぎだ。

何カップだこれ?牛かよ。

よく売ってたな、こんなでかいの。

「自分には大きいかな、とは思わなかったのか?」

「ちょっと思った」

じゃあ買うのやめろよ。

何で押し切ったんだよ。

「よく分かんなかったし、とりあえず買ってみた」

「…」

…無知とは罪だな。

「他には持ってないのか?」

「うん」

「…つまり、それを外すとノーブラ再来ってことか…」

「ノーブラって何?」

お前は知らんで良い。

…とにかく。

どんぐり云々如何に関する説教は、後回しだ。

ベリクリーデの下着問題が、直下の解決すべき課題となってしまった。

何でこんなことに。
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