神殺しのクロノスタシスⅢ
仕方なく。

俺は10分ほどかけて、ベリクリーデの下着を選んでやった。

店員さんが、微笑ましいカップルでも見るかのようにこちらを見ていた。

見んな。

結局選んだのは、薄いピンク、水色、黄色の三着。

まぁ、このくらいが妥当だろう。

あんまり派手な色だと、制服から透けて見えたりするからな。

一応ベリクリーデに確認は取った。

これで、「それ嫌だ」とか言われたら、いい加減匙を投げるところだったが。

「ジュリスが選んだものなら、何でも良いよ」とのことで。

すんなりと決まって、会計を済ませ。

ようやく俺は、桃色空間から脱出することが出来た。

あーしんどかった…。

人生で、初めて入ったが。

人生で、もう二度と入りたくない場所ベスト10に入る。

男が気軽に入って良い場所じゃねぇって。

俺は、この時点でげっそりと疲れ果てていたが。

しかし。

ベリクリーデは、まだまだ元気が有り余っているようで。

「あ。あっちに面白そうなものがある〜」

「あっ!こら待て!」

用を済ませて、とっとと帰りたいのに。

ベリクリーデは、ちょっと目を離すと、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと。

もう、すぐどっか行きやがる。

マジでハーネスつけさせてくれよ。手に負えねぇよ。

そして。

「あ、さっきの美味しそうなお店だ」

先程見かけたクレープ屋に、またしても直行。

あの野郎。

店員さんの、あの「うわ、この人また来た」みたいな目。

本当申し訳ない。

「ベリクリーデ…!大人しくしてような…?」

俺とあの店員さんの精神衛生の為にも、頼むから大人しくしててくれ。

しかしベリクリーデは、どうしてもあのクレープ屋が気になるらしく。

「ジュリス、あれ何て道具なの?」

と、尋ねてきた。

いや、道具ってお前…。

「食べ物だろ?」

「あれ食べ物なの?綺麗だから、何か飾るものかと思った」

あそこに並べられているのは食品サンプルだから、確かに飾るものだが。

実物は、食べるものだ。

「…美味しいの?」

「…お前、クレープ食べたことないのか?」

「あれ、クレープって名前なんだ」

どうやら、食べたことないらしい。

「…」

じーっと、クレープ屋を眺めるベリクリーデ。

…分かったよ。

< 676 / 822 >

この作品をシェア

pagetop