神殺しのクロノスタシスⅢ
「どれが良いんだ?」

「!買ってくれるの?」

「そんなに食べたいんなら、買ってやるよ」

これだけ派手に見つめておいて、買わずに帰ったら店員さんにも失礼だしな。

それでベリクリーデの気が済むなら。

「で、どれにする?」

「全部。全部綺麗だから」

「そんなに食べられる訳ないだろ…」

つーか、全種類焼かされる店員さんの気分にもなってみろ。

「そうなの?じゃあ…これとこれ」

ベリクリーデは、イチゴとカスタードのクレープと。

チョコレートとバニラアイスのクレープを指差した。

まぁ、二つくらいなら食べられるだろ。

「はいはい」

店員さんに注文して、焼いてもらうのを待つ。

10分ほどして、店員さんが焼き立てのクレープを持ってきてくれた。

イチゴのクレープと、チョコのクレープを両手に受け取ったベリクリーデは。

「はい」

何故か、イチゴの方を俺に差し出してきた。

…何だ?

先にこっち(チョコの方)食べるから、それまで持っといてってことか?

まぁ、持っとくくらい別に良いけど。

「もぐ」

人生初めてのクレープを、口いっぱいに頬張るベリクリーデ。

おいおい、一度にそんな大量に口に入れたら…。

「むぐむぐむぐ。もぐ、むーむむむぐー」

何かを伝えようとしてるのは分かるが、全く伝わってこない。

「口の中を空にしてから喋れ」

一口がでかいんだよ、馬鹿。

もっと落ち着いて食べろ。

「むぐむぐ…ごくん」

やっと空になったか?

しかし、勢いよく齧り付いた為、口の周りチョコまみれ。

良い大人がお前…。

「美味しいねジュリス、これ」

「そうか、良かったな」

「ジュリスは何で食べないの?」

「何でって…。お前が食べたいから買ったんだろ?」

「でも、そのチョコのはジュリスの分だよ」

何だって?

「お前が二つ食べたいから、二つ買ったんじゃないのか?」

「?ジュリスの分だよ、それ」

「…」

…俺のかよ。

ならせめて、俺に選ばせる気はなかったのか。

俺の分まで勝手に決めやがったぞ。

別に俺は何でも良いけど、いや、何ならクレープに特にこだわりも執着もないけど。

「まぁ、なんだ…。じゃあ食べるよ」

「うん」

俺は、イチゴとカスタードがたっぷり入ったクレープを口にした。

うん。

まぁ、なかなかの味だな。

「ジュリスのは美味しい?」

「あぁ、美味いよ」

定番な味だよな。イチゴとカスタード。

もうこの組み合わせにしておけば、ハズレはないってくらいに定番。

「そうなんだ。じゃあ一口もらう」

「あ、おい」

ベリクリーデは、俺が片手に持っているクレープに、思いっきりガブッと食らいついてきた。

一口っつーか、一度に三口くらいは持ってったな。

そんなに食べたきゃ、あげるっての。

「もぐもぐ…」

で、顔はまたカスタードまみれ。

すげー食い意地張った女の子みたいになってる。

「…美味いか?」

「むぐむぐ」

こくんこくん、と二度頷くベリクリーデ。

そりゃ良かったな。

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