神殺しのクロノスタシスⅢ
「皆が穫ってたって?」

「収容所仲間」

「収容所?」

「知らないの?私、ルーデュニアに来る前は、収容所にいたの」

何だと?

俺も、これで何かと人生長いから。

色んな場所で、色んな経験してきたが。

収容所人生とは、なかなかお目にかかれないぞ。

「何でそんなことになったんだ…?」

「んー、よく分かんない」

お前に説明を求めた俺が馬鹿だった。

「そこでねー、食べるものがなかったから。皆木によじ登って、どんぐり食べてた」

…。

そりゃあ、余程前時代的な、かつ非人道的な収容所だな。

「皆が争って食べてるから、美味しいのかと思って」

「…」

「ジュリスに、食べてもらおうと思ったの」

…そうですか。

「帰ったら、また木登りするから待っててね」

「いや要らねぇ。その気持ちだけ受け取っとくよ」

どんぐりもらっても、食べ方に困る。

何が嬉しくて、アク抜きから始めなきゃならんのだ。

「じゃあ、何なら欲しい?」

…。

「…欲しいものはないから、お前に大人しくしてて欲しい」

「…」

おい、何で黙るんだよ。

大人しくしてるつもりはないと。自由気ままにすると。そういう意思表示か。

それどころか。

「…あ、ジュリス見てー。柿の木だー」

人様の家の庭に生えてる柿の木を見て、てこてこ近寄っていくベリクリーデ。

あの野郎。

「ちょ、待てコラ!それ渋柿だし、そもそも人ん家のだろ!」

俺は、何かを見つける度に気を逸らし、とっとこ猪突猛進しようとするベリクリーデを、必死に止めながら。

長い長い道のりを経て、ようやく聖魔騎士団の隊舎に辿り着いたとき。

俺は、記念すべき本日十回目の溜め息を、盛大についたのだった。

…はぁ。

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