神殺しのクロノスタシスⅢ
ベリクリーデ・イシュテア。

一見天然で、世間知らずの、ぼんやりした女だが。

その実、彼女の身体中には。

あの禍なる神と対をなす、聖なる神が封じられているのだ。

それ故に彼女は、聖なる神の復活を目論み、邪神の滅亡を望むヴァルシーナ・クルスの獲物として、常に狙われている。

ヴァルシーナだけではなかろう。

ベリクリーデの中に、あの神が封じられていると知れば。

ベリクリーデ一人を巡って、それこそ国同士の争いだって勃発しかねない。

世界そのものを揺るがす、大惨事を招きかねないのだ。

断固として、それだけは阻止しなければ。

「ベリクリーデがどうした?まさか、敵の手に…」

あれも、一応は聖魔騎士団魔導部隊の大隊長。

自分の身くらいは、自分で守れる実力は持っている。

だが。

先日の、ナンパ事件でも分かるように。

あいつは、人を疑うということを知らない。

最悪、美味しいお菓子があるからおいで、と言われれば、ホイホイついていきかねないのだ。

誘拐するのも拉致するのも、赤子の手をひねるがごとし。

既に敵の手に落ちていたら、相当厄介なことに…。

くそっ。少し目を離したらこれだ。

「すぐ行く。ベリクリーデは何処だ?」

「あ、あの…、第2隊舎の、ち、調理室に」

調理室?

何で、そんなところにいるのかは知らないが。

「分かった。すぐ行く」

俺は制服のジャケットを羽織り、杖を持って立ち上がった。

何者が、ベリクリーデに何の用かは知らないが。

あいつに何かあったら、シルナ・エインリーに顔向け出来ない。

俺は、急ぎ第2隊舎に向かった。
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