神殺しのクロノスタシスⅢ
──────…僕にお説教と、『八千歳』の処遇についてを話して。

シルナ学院長達は、医務室から出ていった。

天音先生は、相変わらず医務室にいたけど。

保健室の先生だから。

「…『八千歳』…」

『八千歳』が、イーニシュフェルト魔導学院の生徒。

不思議だ。

自分もかつては同じ立場で、同じ経緯を辿って、今ここにいるのだから。

別に、不思議なことなんかないはずなのだが。

あの『八千歳』が…。

「…大丈夫?令月君」

「…」

僕が、難しい顔をしていると思ったのか。

天音先生が、声をかけてきた。

「やっぱり不安?殺し合いした相手が、同じ校舎の中にいるのは」

「…そうだね」

闇討ちされるんじゃないか、とは思ってない。

だって、勝負はあのとき、ちゃんとついたのだから。

正々堂々勝負して、『八千歳』は負けた。

そのことについては、『八千歳』も理解しているはず。

闇討ちなんかして僕を殺しても、『八千歳』にとっては何も嬉しくなんてない。

でも。

『八千歳』が、素直にイーニシュフェルト魔導学院の生徒になることに了承したことが、どうにも納得行かない…気がする。

そんな人だったっけ?

分からない。

『八千歳』も僕と同じように、逃げ出したかったのだろうか。

『アメノミコト』から。

あの組織にいた頃、僕達はライバル同士…のような関係ではあったけど。

それでも僕達は、お互いのことを深く知っていた訳ではない。

実際僕は、ついさっきまで、彼の本名さえ知らなかった。

『八千歳』の方もそうだろう。

良いんだろうか。闇に生きていた僕や『八千歳』が、本当にこんな、光に溢れた場所にいて良いんだろうか。

それは、許されることなのだろうか。

『八千歳』は、それを自分に許せるのだろうか。

「…大丈夫だよ」

僕の不安を断ち切るように、天音先生が言った。

「…楽観的だね」

「そう思う?でも…僕もそうだから」

「え…?」

僕もそうって…。

「僕も、以前ナジュ先生と…殺し合った仲なんだよ」

「…そうなの?」

「そうだよ。他の生徒には内緒にしてね」

こくりと頷いた。

不死身先生と天音先生が、かつて殺し合いをする仲だったなんて。

他の生徒には、とてもじゃないけど言えない。

不死身先生の方は、何となく察しがつく。あの人は、僕と同じような暗いものを感じる人だから。

多分、たくさん手を汚してきたんだろう。

でも、天音先生は、そうじゃない。

天音先生からは、血生臭いものは一切感じない。

「不死身先生と天音先生が殺し合っても、天音先生に勝ち目はなさそうだけど」

「あはは。はっきり言うなぁ…。でも、実際そうだったよ」

天音先生が弱いんじゃなくて、相性が悪過ぎる。

不死身先生は、特攻型のアタッカーだけど。

対する天音先生は、魔力量も多いし、光魔法は得意だが、不死身先生との相性は最悪だ。

対抗する術がない。

「僕はあの人のこと、殺したいほど憎んでた。多分今も…心の底から許してるとは言えない。大切な人をたくさん殺されたから。憎いって思うときが、ない訳じゃない」

「…それなのに同じ校舎にいて、不満じゃないの?」

「不満じゃないよ。全然」

…何で。

きっぱりと、そう言い切れるんだ。

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