神殺しのクロノスタシスⅢ
「不思議?何で平気な顔していられるのか」

「…凄く我慢してるから?」

「あはは…。我慢はしてないよ。憎いのに我慢してたら、いつか心が壊れちゃうよ」

だろうね。

「じゃあ、どうやって…」

「許すことにしたから。彼には彼の事情があって、そうせざるを得ない理由があったんだって知ったから」

「それで許せるの?」

「さぁ。でも殺された人は、きっと彼のことを許さないから。死んでも許さないから。だから僕だけは、許そうと思った。死者の代わりに、生者の僕が彼を許す。誰にも許されない、誰からも憎まれたままじゃ、ナジュ先生も更正したくても出来ないでしょ」

更正…更正ね。

隙あらば人の心を読んでるけど、あの人はちゃんと更正しているのだろうか。

って、散々人を殺した僕も、他人のことは言えないか。

「心の中でちゃんと折り合いをつけてる。お互いにね。彼は自分の罪から逃げずに、贖罪の道を歩んでる。だから僕は、死者の代わりにそれを見届ける。そのつもりでここに来た。だから、一緒にいても全然平気だよ」

「…ふーん…」

天音先生は、あれだね。

心が広いって言うか…。

イーニシュフェルトの聖賢者より、よっぽど聖賢者って感じだね。

学院長には悪いけど。

「だから君達もきっと、大丈夫だよ」

「…そうかな」

「そうだよ。最初はきっと確執があるだろう。許せないこともあるだろう」

僕は『八千歳』を許すことなんて何もないし、別段憎んでもいないけど。

『八千歳』の方はどうかな。

「だけど、いつかきっと分かり合える。仲良く手を取り合って…は難しいかもしれないけど」

「うん」

「お互いにお互いの譲れないものがあって、それを尊重し合える仲にはなれる。きっとなれる。なれると信じて生きよう。大丈夫だよ、君達はまだ若い。人生長いんだから」

…成程。

年長者の言葉は、重みが違うね。

だってさ、『八千歳』。

僕達の人生は長いから、きっといつか、お互い分かり合える日が来るんだって。

…そうなれたら良い。

少なくとも僕は、そう思った。

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