神殺しのクロノスタシスⅢ
火傷の手当も済んだ頃には。
ミトンをつけずとも持てるほどに、トレイは冷めていた。
何なら、チョコマフィンも冷めてるかと思ったが。
どうやら、マフィンの方はまだ温かかった。
「ジュリス〜。お腹すいた」
「…魔導師は腹減らないだろ…」
ちゃっかり椅子に座って、足をぷらぷらさせながら。
持ってきてもらうの前提で、フォークをコンコンしているベリクリーデである。
完全に幼稚園児。
まぁ、今は手伝えとは言わないよ。手、火傷したばっかだし。
それに、ベリクリーデに手伝ってもらったら、余計な仕事増えそうだから。
そこで、大人しく待っててくれ。
紅茶を淹れ、焼き上がったばかりのチョコマフィンと、更に。
「ほら、こっちも良い感じに出来てるぞ」
「あ、キノコチョコだ!忘れてた」
「トリュフチョコな」
忘れてたか。そうか。
忘れてやるなよ。苦労して作ったんだから。
トリュフチョコも、丁度良い具合に固まっている。
仕上げにココアパウダーをかけて、完成。
皿に並べて、ベリクリーデの前に出す。
「ほら、食べてみろ」
「わーい。いただきま…せん」
「は?」
ついさっきまで、トリュフチョコにフォークを突き刺そうとしていたベリクリーデが。
直前で、ピタリと止まった。
どうした。
「何だ?何があった?」
「私、ジュリスにバレンタインチョコあげるんだった」
はぁ?
「はい、ジュリス。ハッピーメリーバレンタインイヤー」
だから、混ざってるって。
そして今は9月だ。
ベリクリーデは、チョコの乗った皿を、俺に差し出してきた。
…そういや、世話になった男にチョコレートをあげるイベント、と聞きつけて。
こんなことを始めたんだっけか。
随分遠回りしたような気がするが。
つーか、ほぼ俺が作ったようなもんなので、自分の作ったものを自分にプレゼントされても。
大して嬉しくない、と言うか。
「…もらわなくても、俺の分もあるんだけど」
俺には、俺の分あるから。
お前はそれ、自分の分食えよ。
「でもジュリスに、バレンタイン」
「分かったから。気持ちだけ受け取っとくよ」
「でも私、ジュリスの手を借りて、頑張って作ったから」
逆じゃね?
ベリクリーデの手を借りて、俺が作ったようなもんだろ。
手を借りるどころか、足を引っ張られた記憶しかない。
「はい、ジュリス。いつもありがとう」
「…」
自分の皿に乗ってるのと、全く同じものを。
もう一皿もらってしまった俺は、どうすれば良いのか。
独り占めしたみたいになってるんだけど?
…はぁ。
「そしたらお前…。自分の分なくなるぞ?」
「あ、そっか…。…でも良いや」
良いのかよ。
「ジュリスへのプレゼントだから。ジュリスにあげるの」
…そうかい。
そりゃ有り難いね。
なら。
俺は、ベリクリーデに差し出された皿を受け取り。
代わりに、俺の皿を手に取って、ベリクリーデに渡した。
「じゃあ俺からも、ハッピーバレンタイン」
「?」
「これなら、お前も食べられるだろ?」
「…!」
一応、一緒に作ったんだからさ。
お前も食べろよ。食べたがってたじゃないか。
大体、俺一人じゃ食べ切れないし。
「でもジュリス、バレンタインは、男の人に渡すイベントだって」
だから、今9月だからバレンタインじゃない。
だがまぁ、そこはバレンタインということにしておこう。
「世話になった人にも渡すんだろ?だったら、男女は関係ないだろ」
とはいえ。
俺は、お前の世話をした覚えはあっても。
お前に世話された記憶は、全く無いんだけどな。
この際、ベリクリーデにチョコレートを食べさせる為の口実になるなら、何でも良い。
とにかく俺は、一人でこれを食べるのは御免だ。
「だから受け取れよ。一緒に食べた方が美味いだろ?」
「…うん」
ベリクリーデは、珍しく嬉しそうに頷いて。
俺が差し出した皿を受け取った。
皿に乗ってるものは同じなのにな。謎の皿交換。
でも、俺達にとっては、意味のある交換なのだ。
そういうことにしておこう。
ミトンをつけずとも持てるほどに、トレイは冷めていた。
何なら、チョコマフィンも冷めてるかと思ったが。
どうやら、マフィンの方はまだ温かかった。
「ジュリス〜。お腹すいた」
「…魔導師は腹減らないだろ…」
ちゃっかり椅子に座って、足をぷらぷらさせながら。
持ってきてもらうの前提で、フォークをコンコンしているベリクリーデである。
完全に幼稚園児。
まぁ、今は手伝えとは言わないよ。手、火傷したばっかだし。
それに、ベリクリーデに手伝ってもらったら、余計な仕事増えそうだから。
そこで、大人しく待っててくれ。
紅茶を淹れ、焼き上がったばかりのチョコマフィンと、更に。
「ほら、こっちも良い感じに出来てるぞ」
「あ、キノコチョコだ!忘れてた」
「トリュフチョコな」
忘れてたか。そうか。
忘れてやるなよ。苦労して作ったんだから。
トリュフチョコも、丁度良い具合に固まっている。
仕上げにココアパウダーをかけて、完成。
皿に並べて、ベリクリーデの前に出す。
「ほら、食べてみろ」
「わーい。いただきま…せん」
「は?」
ついさっきまで、トリュフチョコにフォークを突き刺そうとしていたベリクリーデが。
直前で、ピタリと止まった。
どうした。
「何だ?何があった?」
「私、ジュリスにバレンタインチョコあげるんだった」
はぁ?
「はい、ジュリス。ハッピーメリーバレンタインイヤー」
だから、混ざってるって。
そして今は9月だ。
ベリクリーデは、チョコの乗った皿を、俺に差し出してきた。
…そういや、世話になった男にチョコレートをあげるイベント、と聞きつけて。
こんなことを始めたんだっけか。
随分遠回りしたような気がするが。
つーか、ほぼ俺が作ったようなもんなので、自分の作ったものを自分にプレゼントされても。
大して嬉しくない、と言うか。
「…もらわなくても、俺の分もあるんだけど」
俺には、俺の分あるから。
お前はそれ、自分の分食えよ。
「でもジュリスに、バレンタイン」
「分かったから。気持ちだけ受け取っとくよ」
「でも私、ジュリスの手を借りて、頑張って作ったから」
逆じゃね?
ベリクリーデの手を借りて、俺が作ったようなもんだろ。
手を借りるどころか、足を引っ張られた記憶しかない。
「はい、ジュリス。いつもありがとう」
「…」
自分の皿に乗ってるのと、全く同じものを。
もう一皿もらってしまった俺は、どうすれば良いのか。
独り占めしたみたいになってるんだけど?
…はぁ。
「そしたらお前…。自分の分なくなるぞ?」
「あ、そっか…。…でも良いや」
良いのかよ。
「ジュリスへのプレゼントだから。ジュリスにあげるの」
…そうかい。
そりゃ有り難いね。
なら。
俺は、ベリクリーデに差し出された皿を受け取り。
代わりに、俺の皿を手に取って、ベリクリーデに渡した。
「じゃあ俺からも、ハッピーバレンタイン」
「?」
「これなら、お前も食べられるだろ?」
「…!」
一応、一緒に作ったんだからさ。
お前も食べろよ。食べたがってたじゃないか。
大体、俺一人じゃ食べ切れないし。
「でもジュリス、バレンタインは、男の人に渡すイベントだって」
だから、今9月だからバレンタインじゃない。
だがまぁ、そこはバレンタインということにしておこう。
「世話になった人にも渡すんだろ?だったら、男女は関係ないだろ」
とはいえ。
俺は、お前の世話をした覚えはあっても。
お前に世話された記憶は、全く無いんだけどな。
この際、ベリクリーデにチョコレートを食べさせる為の口実になるなら、何でも良い。
とにかく俺は、一人でこれを食べるのは御免だ。
「だから受け取れよ。一緒に食べた方が美味いだろ?」
「…うん」
ベリクリーデは、珍しく嬉しそうに頷いて。
俺が差し出した皿を受け取った。
皿に乗ってるものは同じなのにな。謎の皿交換。
でも、俺達にとっては、意味のある交換なのだ。
そういうことにしておこう。