神殺しのクロノスタシスⅢ
「やっぱり、無理でしょうか…」

この近くの駅を管理している駅長さんは、疲れを通り越して、やつれた顔で聞いてきた。

昨日から、土砂崩れの連絡が来て、列車の運航状況を随時、確認連絡報告の嵐で、全然寝てないのだろう。

そりゃあそんな顔にもなる。気の毒なことだ。

だが。

「まぁ、駅長さん。そんな顔すんな。この程度、どうとでもするよ」

「…!」

駅長さんは、地獄に仏でも見つけたかのような目で、俺達を見た。

「怪我や死人は、出てないんだろう?」

「は、はい。幸い…。深夜だったこともあって、線路は無人でした」

台風だったこともあり、駅員さん達も皆も自宅待機。

崩れた土砂も、ギリギリ線路の中に収まっており、近辺の住宅も無事。

不幸中の幸いってことだ。

だから、あとは。

「要するに、あの土砂を退かせば良いんだろう?」

「そ、それはまぁ…そうですが…」

そんなことが出来るのか?と言いたげな顔。

その気持ちはよく分かる。

「土砂を全部撤去したとして、線路の補修には、どれくらいかかる?」

「え、えぇと…。損傷具合を見てみないことには分かりませんが…。電柱や架線は無事なようなので、早ければ三日…いや、技術者を総動員して、二日あれば何とか…」

「二日三日ってところか。了解」

それくらいなら、まぁ被害は最小限と言えるだろう。

「よし、じゃあ早いとこ、あの厄介な土砂を撤去するとしようか」

「え、あ、か、可能なんですか?」

「まぁ、任せておけって。出来ないなら、そもそも俺達、派遣されてないから」

勇ましくやって来て、やっぱり無理そうなので帰ります、なんて。

あまりにも間抜け過ぎるだろう。

ちゃんと、やるべきことはやって帰るさ。

「危ないから、駅長さん、ちょっと皆を下がらせてくれ」

「わ、分かりました…」

付近には、近隣の住民や、他の駅員さん達が、固唾を呑んで見守っていた。

駅長さんが駅員さん達に伝え、その駅員さん達が、近隣住民を離れさせていた。

よし。

これだけ離れてくれれば、大丈夫だろう。

「やるぞ、ベリクリーデ」

「何を?」

何をってお前。

「…話、ちゃんと聞いてたか?」

「土砂がどっしゃーで大変だから、どっかやって欲しいって」

一応、仕事の趣旨は理解しているらしい。

語彙力の低さに問題はあるが。

「そういうことだ」

「私、何したら良い?山消し飛ばそうか?」

やめろ。

「ちげーよ。土砂だけ消し飛ばすんだ。線路と、崩れた斜面は俺が防御壁を張って守るから、お前は土砂だけを消し飛ばしてくれ」

「どっかーんってするの?」

「まぁ、そういうことだ。でも、ちゃんと加減し、」

「分かった。じゃあすぐやるね」

は?

気づいたときには、ベリクリーデの杖から、莫大な魔力が膨れ上がっていた。

おまっ…!!

「どっかーん」

「加減をしろって言っただろうがぁぁぁぁぁ!!!」

凄まじい、爆発音と共に。

俺の絶叫が、辺り一帯にこだましたのだった。
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