神殺しのクロノスタシスⅢ
…結果。

俺が咄嗟に張った防御壁のお陰で、周囲の被害は抑えられた。

一秒でも遅れてたら、線路ごと消し飛んでたぞ。

とりあえず、ベリクリーデへの説教は後回しにして。

崩れ落ちた土砂は、ベリクリーデが綺麗さっぱり蒸発させてしまった。

再び土砂崩れが起きるのを防ぐ為、山の斜面に張り巡らせた防御壁は、解かないでおくことにした。

完全に線路が復旧するまで、この防御壁は維持するつもりだ。

これくらいなら、俺でなくても、ヒラの魔導師でも出来るだろうから。

後で、うちの隊の魔導師を何人か、交代で派遣させよう。

充分安全が確認出来たところで、退避してもらっていた駅長さんに、線路を確認しに来てもらった。

案の定、線路はひしゃげ、アイスピックで抉られたような、悲惨な有り様だったが。

「復旧出来そうか?」

「は、はい。これくらいなら…急げば、明々後日の始発には間に合うかと」

それは優秀だな。

「まぁ、あんまり突貫工事も良くないからな。気をつけて直してくれ」

「は、はい」

「それと、この斜面だが」

俺は、土砂が崩れてハゲ頭になった山の斜面を指差した。

「透明で見えないと思うが、防御壁を張ってある。まだ地盤が緩んでるだろうから、万が一また土砂崩れが起きても、この防御壁が守ってくれる」

「…!」

「この後、俺の部下を派遣して、復旧工事の間、ずっと防御壁を維持するよう指示しておく。それから」

俺は、苦笑しながら言った。

「こんな大事な列車の線路なんだから、土砂崩れ対策くらいしとけよ、って政府の上の人に苦情入れとくから。近いうち、斜面の工事入ると思う。勘弁な」

「…」

駅長さんは、しばしポカンとし。

耐えきれないという風に、噴き出した。

そうだ。

悲惨な顔してるより、笑ってる方がずっと良い。

「そうですね。そうしてもらえると助かります」

「だよなぁ?ったく、上の人ってのは総じて、腰が重い人ばっかだからな。何かが起きねぇと動かねぇの。困ったもんだぜ」

「ははは…」

さてと。

雑談は、これくらいにして。

「じゃ、やることやったし、俺達は帰るよ」

「あ、はい。本当に…本当にありがとうございました…」

駅長さんは、帽子を取って、腰を90度に曲げて礼をした。

それに倣って、他の駅員さんまで。

「ありがとうございました!」

「助かりました…!」

「おいおい、やめてくれ、勘弁してくれよ」

こちとら、仕事しただけなんだからさ。

そんな、涙ぐんで感謝されたら、こっちも反応に困るだろうよ。

「大したことしてねぇよ。礼は良いから、頭上げてくれ。それより、早いところ列車を復旧してやってくれ」

「は、はい」

「じゃあな。…帰るぞ、ベリクリーデ」

「うん」

礼は良いって言ったのに。

駅員一同、更には近くで見ていた、近隣住民までもが。

感謝の意を込めて、いつまでもぺこぺこと頭を下げ、手を振ってくれた。

俺としては、本当に、大したことしたつもりはないんだがな。

ここまで感謝されると、やっぱり、嬉しい気持ちがない訳ではない。

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