神殺しのクロノスタシスⅢ
…で。

「…ベリクリーデ!」

「はい」

隊舎に帰り、防御壁を張る為に、部下の魔導師を何名か派遣し。

俺達を派遣した、魔導部隊隊長シュニィへの報告も済ませ。

仕事が一段落して。

まず、最初にやることは何か。

言うまでもなく…説教である。

「お前な!いつもいつも、何度言ったら分かるんだ!」

「…何を?」

とぼけやがってこの野郎。

「あの派手な魔法だよ!危うく線路と、山と、民衆と、俺が吹き飛ぶところだったろうが!」

命の危機を感じたわ!

駅員さん達が見てたから、平然とした顔装ってたけどな!

「もっと加減をしろ、加減を!威力を調節しろ!」

「だって、ジュリスがどっかーんってやれって言ったから」

俺のせいかよ。

「何度も言ってるだろ!あれは比喩だ、比喩!」

「…ひゆ?」

「例え話ってこと!本当に吹き飛ばせとは言ってねぇよ!」

俺の防御壁展開が、僅かでも遅れていたらと思うと。

寒気がする。

二次災害どころじゃない、甚大な人災が起こるところだった。

シュニィよ。ああいう場所への派遣は、もっと人事を考えてくれ。

「大丈夫だよ」

「は!?何が」

ベリクリーデは、何故か微笑みさえ浮かべていた。

「私、ジュリスのこと信じてるから。ジュリスが守ってくれるって分かってるから。ジュリスなら大丈夫だよ」

「…」

「ジュリスのこと信じてなかったら、あんなことしなかったよ」

「…あ、そう…」

そうか。そうですか。はいはい。

信用してくれて、どうもありがとうございますね。

「私ジュリスのこと信じてるから。だから大丈夫」

何が大丈夫なのか、ちょっと誰か、説明してくれませんかね。

俺はもう、こいつの謎理論についていけねぇよ。

あー、もう頭痛くなってきた。

「もうお前の面倒は見きれん。俺は疲れた」

「お疲れ様、ジュリス」

俺の疲れの八割は、大抵お前のせいだ。

「…俺はもう帰るからな」

「え、もう?」

「疲れたし。それに、報告書も書かなきゃならないだろ」

「それなら、私も一緒に…」

馬鹿言え。

「お前が混じったら、余計な手間が増えるだけだ。ついてくんな」

「…」

「頼むから、今日はもう、俺を煩わせるのはやめてくれ」

そう言い残して。

俺は、くるりと踵を返した。

我ながら大人気ないことを言ったと、後になって思った。

…もし、このとき一瞬でも振り返って。

俺の背中を見つめながら、ベリクリーデがどんなに悲しそうな顔をしていたか、この目で見ていたら。

きっと俺は、すぐに彼女に駆け寄って、謝っていただろう。

もし、このとき。

次にベリクリーデに会えるのは、ずっと先になることを知っていたら。

…俺はきっと、彼女を抱き締めて、離さなかっただろう。
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