神殺しのクロノスタシスⅢ
「いいや、その方は生き神様だ!私は見た!」

「何をだよ!?」

「その方が、不思議な力を使い、大地の形を変えるのを」

はぁ?

「それに、伝承に伝わるその端麗な容姿。間違いなく、その方は生き神様…」

「…馬鹿言ってんじゃねぇよ!」

言わせておけば、適当なことを。

「お前らの言う不思議な力ってのはな、確かに誰でも使える訳じゃないが、でも王都じゃそんなに珍しくもねぇ!外を見てみろ!俺の仲間達を。俺も俺の仲間も、お前らの言う不思議な力を使ってるだろうが!」

彼らの言う、不思議な力、とは。

つまるところ、魔力のことであり。

生き神様とは、魔導適性を持つ魔導師のことを指しているのだ。

「お宅らの理論で言えば、俺も俺の仲間達も、全員生き神様になるんじゃないのかよ!え!?」

「し、しかし伝承には…」

イラッ。

「伝承ってのが何なのかは知らねぇが、偶然あんたらの谷に、魔力の使える少女が生まれて、それが珍しかったから、伝承呼ばわりされるようになっただけだろ!」

俺の推測するに。

この桔梗谷に、生き神様伝説があるのは、紛れもない事実なのだろう。

恐らく、クュルナのケースと同じだ。

普通の人間が、普通にこの谷に暮らしていたとき。

偶然、何かの拍子に、魔導適性を持つ子供…少女が生まれ。

その少女が魔力を使えたものだから、魔法の概念を知らなかった谷の人々は、その少女を、桔梗谷に遣わされた神の使い…生き神様だと祀った。

それが、生き神様伝説の始まり。

時は流れ、その少女も亡くなった。

魔力を持っていると言っても、ある一定の魔力量を越えなければ、俺やシルナ・エインリーのように、寿命がなくなる訳ではない。

つまり、少々魔法が使える程度、の魔導師では、確かに普通の人間よりは長生き出来るものの。

寿命はある。寿命を迎えれば、いつかは死ぬ。

恐らく初代生き神様とやらは、魔法を使えるとは言っても、魔力量はそれほどでもなかったのだろう。

故に、生き神様は死んだ。

だが、魔法の概念を知らないこの谷の人々は、そんな事情は知らない。

ずっとこの谷を守ってくれていた、生き神様が死んだ。

生き神様に頼りっぱなしで生きてきた谷の人々は、新しい生き神様を必要とした。

方々回って、あちこち旅して探して。

遥々王都まで来て、そして…ベリクリーデを見つけた。

大地の形を変えた…とか言ってたな。

時期的に考えて、恐らく。

あの、台風の後、土砂崩れの始末をした任務。

多分あのとき、取り巻きの中に、桔梗谷の人間がいたのだろう。

そして、土砂を一瞬にして消したベリクリーデを、これこそ生き神様だと勘違いした。

実はあのとき、俺も魔力の防御壁を出したりして、魔法使ってたんだけどな。

俺の防御壁は透明だったから、俺も魔法を使えるのだということが、連中には分からなかったのだろう。

で、アナベルの家族を脅して、半ば無理矢理ベリクリーデを拉致した。

唯一分からないのは、祀られているであろうベリクリーデが、何でこんな血まみれで、ぐったりしているのか、という点だが。

まぁ、おおよその検討はつく。

ベリクリーデが、こいつらの思ったような理想の「生き神様」じゃなかったからだろう。

それも当然だ。

ベリクリーデは、生き神様なんかじゃない。

聖なる神を宿していることを除けば。

ベリクリーデはただの、普通の魔導師なのだから。

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