神殺しのクロノスタシスⅢ
そして今回、ここまで事態が深刻化したのは、ベリクリーデの性格も起因している。

言わずもがな、ベリクリーデは人を疑うということを知らない。

アナベルから、偽の指令書を渡された時点で、「これは単独の秘匿任務だ」と思い込んでいる。

これが普通の人間だったら。

桔梗谷に来た時点で、何かおかしいと疑うだろう。

そもそも、偽装された女王の印を見ただけで、おかしいと察するはずだ。

大体、本当にそんな重要な任務なら、アナベルのようなヒラ魔導師に伝達させたりはしない。

最低でも、シュニィを通して持ってくるはずだ。

だが、良くも悪くも…今回は悪い方に傾いてしまったが…ベリクリーデは、疑うということを知らないので。

女王からの特命と思い込んで、ホイホイやって来て。

何をされても、何を言われても、それは「任務」と思い込んでいる。

「任務」だから、我慢しなければならないし、耐えなければならないと。

…しかも。

ベリクリーデは、「一人で」任務をこなすことに執着しているようだった。

それは多分…俺のせいだ。

あの土砂崩れ事件の後、俺は、酷く大人気のない態度を取ってしまった。

そうだ。俺は、あのことを謝ろうと思っていたのだ。

それなのに、その機会もないまま、ベリクリーデはここに囚われてしまった…。

だから俺はもう、決して、彼女を何処にも行かせない。

絶対に、俺が守る。

ましてや。

こんな閉鎖された山の奥深くで、籠の鳥のように捕らわれ、生き神様と称えられるなんて…。

…そんなこと、俺が絶対に許すものか。

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