神殺しのクロノスタシスⅢ
…結局。

大人気のない俺に代わって、桔梗谷の人々と話をつけてくれたのは、クュルナだった。

彼女を遠征メンバーに加えたのは、正解だった。

クュルナ自身、このような未開拓の土地の出自である為。

彼らの事情は、よく分かっていた。

その上で、桔梗谷の文化や伝統を尊重した上で。

文化の保護という面から考え、どう譲歩したとしても。

「生き神様制度」は、現在のルーデュニア聖王国では違法とみなされること。

そして、彼らの言う「生き神様」は、国内ではさして珍しい存在ではなく。

魔法を使えりゃ、そりゃ確かに便利は便利かもしれないが。

生き神様とやらが、別にいようがいまいが、さして生活に影響はないのだということを、クュルナは説明した。

勿論、桔梗谷に生まれ、生き神様制度を心から信じている彼らが、クュルナの言葉を素直に受け入れるはずがない。

クュルナも、そんなことは分かっている。

ともかく。

俺達は職務に従って、ベリクリーデを「返還」してもらい。

その上で、聖魔騎士団魔導部隊大隊長として、彼らに二度とこのような不法行為はしないよう「命じた」。

効き目があるのかどうかは分からない。

だから、俺達はこの桔梗谷を、要注意村落と認定し。

定期的に、調査に来る必要性があると、フユリ様に上申するつもりだった。

王都に帰ったら、すぐにでも。

そうすれば、定期的に桔梗谷に監査が入り。

また無辜の女性が囚われたとしても、すぐに解放出来るだろう。

俺達とて、彼らの信じてきた文化や伝統を、無下に扱いたくはない。

それでも、犯罪は犯罪だ。

連れ去った女性は、彼らにとって大事な生き神様かのかもしれないが。

連れ去られた女性の家族や友人にとっても、かけがえのない、大事な人間なのだから。
< 772 / 822 >

この作品をシェア

pagetop