神殺しのクロノスタシスⅢ

指南本編前編

―――――――…それは、トラーチェでの生き神様事件が収まって、しばらくたった頃のこと。

「ジュリス隊長、お疲れ様です」

「あぁ、ありがとさん」

書類作成に追われていた俺に、部下の一人が、そっと湯気を立てる紅茶のティーカップを差し出してきた。

有り難い。

書類仕事ってのは、苦手ではないのだが。

如何せん、量が多くて困る。

というのも、俺の困った相棒の分も、俺が肩代わりしているからである。

何故、相棒の分まで俺がやってるのかって?

仕方ないじゃないか。

まともな教育を受けていない奴は、文章を読むことはそこそこ出来るのだが、書く方はほとんど出来ないようで。

書かせてみたら、象形文字か?って思うくらい汚い字で。

それも、文章の書き方を知らないようで。

文章を書かせたら、もう、文法が支離滅裂。

例えるなら、「今日は頭を打って頭が痛くて頭痛が打って頭に痛くて、明日は頭痛と痛い。」みたいな、支離滅裂さ。

とりあえず、頭が痛いのは伝わってくる。

これはあくまで例えだが、本当にそんな感じの文章を書くので。

とてもではないが、聖魔騎士団の公式文書として提出させる訳にはいかない。

よって、仕方なく俺が代筆している。

かつ、私的に国語の勉強を教えている。

全く、何で俺がこんなことまで。

仕方ない。そんな奴でも俺の相棒なのだから…。

多少奇妙奇天烈なことをするが、甘んじて受けい、

「あ、そういえばジュリス隊長、知ってますか?」

紅茶を持ってきてくれた部下が尋ねた。

「何だ?」

「ベリクリーデ隊長に、彼氏が出来たそうですよ」

「ぶはぁっ!」

思わず、口に含んでいた紅茶を噴き出してしまったお陰で。

俺の書類作成は、振り出しに戻った。
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