神殺しのクロノスタシスⅢ
もう良い。ベリクリーデに、自分がおかしいことに対する自覚を求めた俺が愚かだった。

「ベリクリーデ!お前、何やってんだ?何て格好してるんだ。あと、彼氏がどうのって言うのはどういうことなんだ!?お前は何がしたいんだ!」

聞きたいことを数えていたら、全部口に出てしまった。

すると。

「…」

ベリクリーデは、びっくりしたような顔でフリーズした。

…おい、何で固まるんだよ。

「…おい。おい大丈夫か」

「…一度にいっぱい聞かれて、何答えたら良いのか分かんなくなっちゃった」

「お、おぉう…。それは悪かった」

って、何で俺が謝ってんの?

分かった。一つずつ、一つずつ聞こう。

「お前、今何やってんの?」

「刺繍」

お前が今持ってるの、針と糸と布と、松ぼっくり(実物)なんだけど。

俺の知ってる刺繍と違う。

「そうか。進捗状況はどうだ?」

「丁度良いところまで来たよ」

どの辺が?

まず、お前が持ってるの、それまち針なんだけど。

糸も、それしつけ糸だし。

それでどうやって刺繍するんだ?

「何を刺繍したいんだ」

「松ぼっくり」

とりあえず、こいつの周りに何で松ぼっくりが散らばってるのか、その理由は分かった。

松ぼっくり(物理)を刺繍したかったんだな。

でもな、ベリクリーデ。

何か勘違いしているようだが、刺繍って、実物を布に縫い付けることじゃないから。

「何で刺繍したいんだ?」

「『じょしちから』っていうのが上がるらしいから」

「…」

「…どうかした?ジュリス」

それはこっちの台詞だ。

お前がどうかしてるよ。

はい、質問次。

「その格好は何だ?」

「格好?」

「その、ふりふりしたワンピースだよ」

お前、そういうの好きだったのか?

そりゃ、女性の服の好みは、人それぞれだと思うけどよ。

そういう、ガッツリしたロリータ服は、今日日コスプレ会場くらいでしか見られないぞ。

少なくとも、普段着で着る人はそうそういない。

あと、背中のチャック締めろ。

「こういうのが可愛いんだって。ジュリス、これ可愛い?」

「…そりゃ、まぁ…。服自体は可愛いけどさ…」

リボンをもっとちゃんとつけて、パニエももっとちゃんとつけて。

あと背中のチャック締めたら、多分もっと可愛いと思うぞ。

「良かった」

満足するなよ。

「何でそんなの着てんの?」

「『じょしちから』が上がるから」

「…」

…あ、そう。

じゃあ、一番の関心事を聞くとしようか。

「お前、彼氏が出来たって本当か?」

「うん」

「マジかよ」

マジかよ。

「誰だ?」

「ふぇ?」 

「お前の彼氏って、誰だよ」

「…ジュリス、なんか怒ってる?」

別に怒ってねぇよ。

「好きな人だよ」

「…お前に、好きな人がいたことに驚いたよ」

てっきり、そういう色恋沙汰とは縁遠いものだと…。

いつの間に、何処の誰と…。

…。

「どんな奴なんだ?その彼氏って…」

「良い人だよ。優しいし」

…へー…。

そりゃ結構なことで。

でも、人生優しいだけじゃやっていけないからな。

どんな優男か知らないが…。

…何だろう。無性にむしゃくしゃする。
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