神殺しのクロノスタシスⅢ
…とりあえず。

「…松ぼっくりは要らねぇ。あと、俺はお前と付き合うつもりもねぇ」

「!」

ガーン!みたいな顔になるベリクリーデ。

「何で?こう言って松ぼっくり渡したら、皆松ぼっくり受け取ってくれたよ?」

「…」

そうか。

何となく、話が読めてきた。

お前は、好きとか嫌いとか、恋愛感情とか何も知らず。

何処からか仕入れてきた、謎の知識を実践しようと。

松ぼっくりを拾い集めてきて、結婚指輪代わりに。

自分の部下の男性達相手に、さっきの文言と共に、松ぼっくりを差し出してきたんだな?

で、相手がその松ぼっくりを受け取ってくれたら、告白成功だと、勝手に勘違いしているだけ。

そりゃあ、お前が今まで告白してきたのは、お前の部下だからな。

上司が、あくまで好意で松ぼっくりをくれようとしているのに。

無下に断るのも気が引けるから、仕方なく松ぼっくりを受け取っていたのだろう。

で、ベリクリーデはそれで、彼氏成立と思い込んでいたと。

物凄い脱力したと共に、心底安心した気分だ。

「…ベリクリーデ」

「?何?」

「俺は今、お前が馬鹿で、心の底から良かったと思ってるよ」

「…??ありがとう」

褒めてはないけどな。

ひとまず、俺達が世間一般的に考える「彼氏」なんて、ベリクリーデには存在しないことが分かったので。

とりあえず、お前のその間違った努力と、間違った知識の源をハッキリさせよう。

ベリクリーデが、自発的に女子力を上げようと、刺繍や化粧やお洒落などに手を出すはずがないからな。

何か、誰か、入れ知恵した奴がいるはずだ。

「ベリクリーデ」

「なぁに?」

「お前、さっきからじょしりょ…いや、『じょしちから』を上げるんだと言ってたが」

「うん」

「何処で、そんな知識を仕入れてきた?」

「これ」

ベリクリーデは、サッ、と。

一冊の本を取り出した。

その本のタイトルは、

『猿でも分かる!モテ女になる方法』

「…成程」

もう、この本のタイトルだけで。

ベリクリーデの、奇妙な行動の意味が分かった。

全ての原因は、その本だな。
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