神殺しのクロノスタシスⅢ
パニエを脱ぎ、ハイヒールも脱ぎ。

捲れたスカートも、ちゃんと直したら。

今度は。

「その、けばけばしいアクセサリーも全部外せ」

「え、でもアクセサリーつけたら、好感度アップだって」

「つけ過ぎなんだよ。全部の指に指輪とか、何処の富豪だ」

しかも、その指輪。

よく見たら、玩具のアレじゃん。ウエハースとかについてる女児用の玩具アクセサリー。

そんなもんで好感度が上がるかよ。

むしろ安っぽさが際立ってる。

「全部外せ、全部」

「えー」

「お前はもとが良いんだから、そんなもんつけなくても充分美人だよ」

「…」

何故黙る?

とにかく、アクセサリーを全部外させ。

次にするべきことは。

「…顔、化粧落としてこい」

「えっ」

えっじゃねぇよ。

「その、落書きしたみたいな顔を何とかしろ」

「でも、ジュリス」

「何だよ?」

「私、これ頑張って描いたんだよ。ちゃんとお店に行って、『顔に落書きするものください』って店員さんに頼んで買ったんだもん」

めちゃくちゃアバウトな注文をする客だな。

落書きってお前。

それで、インクペンじゃなくて、ちゃんと化粧品を売ってくれた、店員さんに感謝。

さもないとこいつ、マジでインクペンを使って、顔に塗りたくっていたところだった。

やりかねないからな。常識とか通用しないから、こいつ。

まさかそんなことはやらないだろう、ってことを必ずやらかしてくれる。

「じゃあ、顔洗ってくるー」

「ちょっと待て。ちゃんとクレンジングクリームで落とせ。肌が荒れるぞ」

「…?」

ほら見ろ。水洗いするつもりだっただろ。

言わんこっちゃない。

「化粧品買うとき、店員さんが化粧落とし用のクリームも売ってくれなかったか?」

「うーん…。どれだろ?」

俺は、ベリクリーデの乱雑なコスメポーチを覗く。

あーあ。アイシャドウやアイブロウペンシルやら、口紅やファンデーション、チークやらが、雑多に詰め込まれている。

もっとちゃんとさぁ…。綺麗に片付けるとかさぁ…。

こんな、ゴチャッと放り込んだみたいに…。

「はいはい、全く、お前は片付けるということを…。あぁほら、あるじゃないか」

コスメポーチを探ると、一本の白いチューブが出てきた。

店員さん、ちゃんとクレンジングクリームまで売ってくれたんだな。

ありがとう。

「これを使って洗うんだよ。丁寧に塗り込んでな」

「分かったー」

「あ、馬鹿捻り出すな。スプーン一杯分くらいで良いんだよ」

お前、歯磨き粉渡したら、加減を知らずに捻り出すタイプだろ。

勿体無いからやめろ。

全く、化粧を落とさせるだけで大変だ。
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