神殺しのクロノスタシスⅢ
さて、化粧を落としたら。

「次は髪だな」

「髪?」

「お前、その頭。どうやってそんなくしゃくしゃにしたんだ?」

山姥みたいになってるぞ。

いつもの、ただの寝癖じゃないだろ。

どうせ、そのろくでもない本に感化されて、変なものに手を出したのだ。

「これ使ったの。面白い形でしょ?これね、名前も面白いんだよ。こてんって言うの」

「コテな、コテ」

やっぱり、そんなものに手を出して。

お前みたいな、不器用世界代表みたいな奴が、初見で使うものではない。

「本に書いてあったの。こてん、で髪をくるくるしたら可愛いって」

「そうだな。上手に巻けてたら、可愛かっただろうな」

でもお前、超下手くそだから。

ぐっしゃぐしゃの、ボッサボサになってる。

これを何とかするには…。

「ちょっと、それ貸してみろ」

俺は、ベリクリーデのコテを借り。

彼女の髪を、綺麗に巻き直すことにした。

何でそんなことが出来るのか、って?

長生きしてると、意外なことでも上手くなる機会があるもんなんだよ。

およそ15分ほどで、ベリクリーデの髪は、くるくると綺麗に巻かれた。

「ほら、出来たぞ」

「わー。ジュリスすごーい。髪くるんくるんだ」

いつもは、ストレート…って言うか、寝癖つきっぱなしだからな。

たまには、イメチェンって奴だな。

「くるんくるんだ〜」

「あ、おいあんまり触んなよ。パーマ当ててる訳じゃないんだから」

熱で固めてるだけだからな。しっかりめに巻いてはいるが、あんまり触るともとに戻ってしまう。

「凄いね〜、ジュリス」

「…」

俺は、雑多なコスメポーチを見下ろした。

…折角揃えたのに、こんな酷い使われ方をして、しかもその後お蔵入り、ってのは…。

あまりにも、気の毒。

それに、折角髪も綺麗に整えたんだし…。

…乗りかかった船だ、しょうがない。

「…ジュリス?」

「…ちょっと、じっとしてろ」

俺は、コスメポーチの中から、下地クリームのチューブを取り出した。

まぁ、昔取った杵柄。

長生きしてりゃ、色んなことに精通するもんだ。
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