神殺しのクロノスタシスⅢ
急ぎ、女性隊舎の裏庭に向かう。

するとそこには、怯えた女性隊士達の人だかりが出来ていた。

何やら恐ろしいものでも見るかのように、無言で怯えていた。

そして、そんな彼女達の視線の先には…。

地面に、まるでその部分だけアイスピックで抉ったような、巨大な穴が二つ。

その横で、ロープで木に繋がれ、キャンキャン鳴いている野良犬が三匹と。

「…もごもご」

何やら、黒い、巨大なシートのようなものに巻き込まれ、じたばた身体を動かしている、奇怪なベリクリーデの姿が。

…。

…そりゃ、怯えもするわ。

何をやってんだ、あの馬鹿は。

もう絶対ろくなことじゃないに決まってるので、即刻立ち去りたいのだが。

こんなにも、部下達が怯えた視線を向けているのに。

あの奇妙な人物の相棒である俺が、背を向ける訳には行かなかった。

「…皆、大丈夫だ」

怯える女性達に声をかけると、彼女達はビクリと身体を震えさせ、

そして、俺の姿を見て、地獄に仏みたいな顔になった。

そうか。そんなに安心したか。

保護者が来た、みたいな顔になってるぞ。

あながち間違ってないから、悔しいところだ。

「あとは、俺が面倒見る。皆帰って良いぞ」

「で、ですがジュリス隊長…」

「心配するな。俺が何とかする」

と、言ってはみたものの。

何から手を付けて良いのか、今のところ分かってない。

俺も、ちょっと頭をクールにしなければ。

あいつの相手は出来ない。

…ちなみに。

「お前達、あの摩訶不思議ベリクリーデが、何しようとしてるのか知ってるか?」

あいつが今、何をしたくてあんなことになってるのか。

それさえ分かれば、対処の仕様があるかと思ったのだ。

しかし。

「ぜ、全然。全ッ然分からないんです…。私達にも、何がなんだか…」

「そうか…。よく分かった」

分かったから、そんな涙目で訴えないでくれ。

俺の方が、心苦しくなってくる。

「あとは俺が何とかするから、皆持ち場に戻ってくれ」

「ジュリス隊長…。ほ、本当に大丈夫でしょうか?」

「あぁ。大丈夫だって。ほら、ここは俺に任せて」

「す、済みません…」

「宜しくお願いします…」

俺が虚勢を張ってみせると、彼女達はおずおずと、後ろ髪を引かれるように持ち場に帰っていった。

ごめんな。謝らなきゃならないのはこっちなのに…。

…いや待て。何故俺が謝らなきゃならん。

謝らなきゃならないのは、この摩訶不思議ベリクリーデの方だろ。

危なかった。俺は危うく、完全に、身も心もベリクリーデの保護者になっているところだった。
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