神殺しのクロノスタシスⅢ
「あのなぁ…。最近のキャンプ用品だと、女が一人でも建てられるように、簡単なテントがいくらでも売ってるだろ」

俺は、ベリクリーデの代わりに、テントを組み立てながら。

ベリクリーデに向かってそう言った。

昨今の、女性の一人キャンプブームで。

女性が一人でも張れるよう、簡単な造りになっているテントが、よく売られている。

ああいうのを買えば、不器用ルーデュニア聖王国代表みたいなベリクリーデでも、一人でテントを張れたかもしれないのに。

「だって、そんなの本に書いてなかったから」

あー、はいはい。そういうことね。

あくまでその本、初心者向けではあるものの、「本格キャンプ」だから。

そういう、簡単なテントは使わないのね。

別に、簡単なテントでも良いと思うけどなぁ。

最近は便利なものが出来てんだからさぁ…。

と、思いながら。

「ほら、出来たぞ」

テント、完成。

「わー、凄いジュリス。私、5時間かけても出来なかったのに」

5時間かけて出来なかったどころか、5分足らずで絡まりまくってただろうな。

多分、残りの4時間55分は、じたばたしてただけだろう。

かつ、地面に大穴開けてた。

で、何で俺がテント張ってるのか、って?

もう、何でも良いからキャンプやらせようと思って。

放っといたら、こいつ、マジで野良犬を追い掛け回して。

地面に穴を開けて、延々テントに絡まって藻掻いているだろうから。

だったらいっそ、何もかもお膳立てして、一応キャンプを楽しませてやったら。

それで、納得するだろう。

隊舎の裏庭でキャンプをやっても良いのか、という点については。

…まぁ、後で俺が、シュニィに謝っておこう。

「中に入っても良い?」

「あぁ、良いぞ」

「やったー」

建てたばかりのテントに、這いつくばりながら入るベリクリーデ。

「わー。わー。すごーい。広いね、秘密基地だ。秘密基地〜」

何やら、興奮している様子。

初めてのテントに、秘密基地感を感じているらしい。

子供だ。

「ジュリス、ここ秘密基地」

「あぁ。良かったな」

「ジュリスと私の秘密基地だよ」

は?

「何で俺まで含まれてんの?」

「ジュリス、バーベキューしよ。キャンプはバーベキューするんだって、本に書いてあった」

「あ?あぁ…」

今、なんか変なこと聞いたような気がするけど。

多分気のせいだ。

「私、火を熾す(おこす)から。ジュリス、お肉焼いて」

と、言って。

ベリクリーデは、錐揉み式の火付け道具一式を取り出した。

聞くまでもない。

あの本の入れ知恵だな。
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