神殺しのクロノスタシスⅢ
言うまでもないことだが。

バーベキューの始末も、俺がやらされた。

やらされたと言うか、俺がやるって言ったのだ。

ベリクリーデに、油でベタベタの網やトングを、綺麗に洗えるとは思ってないし。

普通の人でも面倒な、炭や灰の始末が出来るとは、到底思えない。

従って、俺がやった。

面倒だったけど、何だかんだ俺もバーベキューのご相伴に預かったので、後片付けを申し出た次第である。

まぁ、材料費を出したのも、準備したのも片付けたのも、全部俺なんだけど。

ベリクリーデは、企画を用意しただけ。

これだけ聞くと、ベリクリーデか凄い嫌な奴に思えるかもしれないが。

こいつな、悪意はないんだよ。悪意がないから余計タチが悪いのは事実。

そして、悪意がない上に、むしろ無邪気過ぎて。

責めようにも、なんか責められない。

誰も、三歳児の悪戯に、本気でブチギレるような、大人気ない真似はしないだろう?

それと一緒だ。

つまり、ベリクリーデの言動は三歳児レベルってことだな。

とにかく。

「よし、後片付けは全部終わった。あとは…」

「寝るだけだね、ジュリス」

ベリクリーデは、寝袋を抱えて、わくわくとテントの前に立った。

あぁ、テントの中で寝たいんだっけ。

じゃ、俺の仕事はこれで終わりだな。

明日、朝になったらテントを片付けに来よう。

テントを張れなかった奴が、ちゃんと片付けられるとは思えない。

「そうだな、じゃあまた明日な」

「うん、はい、これジュリスの分の寝袋」

は?

俺はベリクリーデに、新品の寝袋を一つ、押し付けられた。

「よし、テントの中に入ろう。…わー、広い広い」

…何?この寝袋。

何で二つあるの?

「ジュリス、早く入って。外、もう暗くなってきちゃったよ」

「は?いや、お前何言って…」

「ランタンって、どうやってつけるの?」

「…普通にスイッチ押したらつくだろ」

「あ、ついた。ついたよジュリス。わーキャンプっぽーい」

嬉しそうで何より。

それは良いけど、それで、この寝袋は何?

「次は寝袋…。おぉ、凄い凄い。これ、どっちが頭?足はこっち?」

「…」

「何処から入って…。…あ、ここ穴が開いてる。ここに頭から…あれ?暗…」

「…」

「…もがもがもが」

…テントの中で。

ベリクリーデが、寝袋に入れずに、藻掻いている気がする。

仕方なく。

俺は、テントを開いて中を覗くと。

ベリクリーデは案の定、上半身を寝袋に突っ込んだ状態のまま、下半身をバタバタさせていた。

どうやったら、あんなことになるんだ?

むしろ凄いのでは?

「あのな、それ逆。頭から突っ込むんじゃなくて、足から入れるんだよ。窒息するだろ」

やむなくテントに入った俺は、ベリクリーデを寝袋から引っ張り出した。

「…死ぬかと思ったー」

「…アホだろ…」

テントを一人で建てられないのはまだしも。

寝袋にも、一人で入れないとは。

もう不器用とか、そういう次元じゃないぞ。
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