神殺しのクロノスタシスⅢ
仲良くケーキを食べよう作戦が、見事に失敗した後。

撃沈しているシルナを横目に、俺は、令月を呼び出した。

「なぁ令月」

「何?」

「あいつ、すぐりのことだけど」

「『八千歳』のこと?」

お前ら、何だかんだお互いコードネームで呼び合ってるよな。

本名分かってるのに。

長年コードネームで呼び合ってるから、今更変えるのは難しいのかもしれない。

まぁ、あだ名で呼び合ってる仲なのだと思おう。

前向きな解釈。

「あいつ、洋菓子は好きじゃないって言ってただろ?」

「実は僕もあんまり好きじゃない」

そうなのか。

そうとも知らず、散々シルナの洋菓子に付き合わせて悪かったな。

「なら、すぐりは何が好きなんだ?食べ物の中で、何が一番好物なのか知ってるか?」

「うーん…。知らない」

…やっぱりか。

ある程度、予想はしてた。

お互い、本名さえ知らなかった仲なのだ。

お互いの好きな食べ物なんて、知る機会はなかっただろう。

「あ、でもシリアルバーならよく食べてたよ」

「…それは携帯食料だろ…」

「うん。僕もよく食べてた。任務中に」

違う。そうじゃない。

そういうことじゃないんだよ。

「じゃあ、令月の好きな食べ物は?」

「うーん…。何だろう?」

自分の好きな食べ物でさえ、把握していない。

…そもそも、魔力量の多い者は、食事をする必要がほとんどないからな。

令月も、力魔法に偏ってるとはいえ、一応魔導師の端くれだし、

まず、食事をする機会が少なかったんだろう。

「洋菓子は好きじゃないって言ってたけど…」

「うん。洋菓子よりは、和菓子の方が好き」

おっ。

なんか良い情報を得たぞ。

成程和菓子か。シルナが和菓子食べないから(あいつは生クリームやチョコレートこてこての、甘々な洋菓子しか食べない)、和菓子という発想がなかった。

「和菓子の中で何が好き?」

「…桜餅?」

「…そうなんだ…」

半年以上一緒にいて、初めて知った。

そうとも知らず、シルナに付き合わせて洋菓子ばっか食わせてごめんな。

「でも、本当に好きなのかどうか分からない。ジャマ王国にいたとき、何かの機会で一度しか食べたことないから」

「…そうか」

「そのときは、甘くて美味しいなって思った気がするんだけど…」

「…」

桜餅の一つが、何だって言うんだよ。

子供なんだから、好きな菓子くらい好きなだけ食べさせてやれ。

…とにかく。

「じゃあ、令月」

「何?」

「桜餅を作って、すぐりにあげたらどうだ?」

ケーキで親睦を深める作戦は、見事に失敗した。

その敗因を考えるに、二人共そもそも、ケーキが好きじゃなかった。

ならば、今度はお互いの好きなお菓子で再チャレンジを図ろう。

それも、手作りお菓子をプレゼントして、親睦を深める作戦。

少なくとも、シルナが一方的に買ってきたケーキ作戦よりは、効果があるのではないかと思う。

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