神殺しのクロノスタシスⅢ
「…」

…何だろう。この不穏な感じ。

これがもし戦場だったら、撤退を考える空気だ。

あれ?俺、今日はフラグ回避したはずだよな?

いや待て、焦るのは早いぞ、俺。

ベリクリーデが変なことを言うのは、いつものことじゃないか。

むしろ、まともなことを言ってるときを探す方が難しいくらい。

だったら、別に心配することはない。

フラグだと決めつけるのは良くないぞ。

…フリじゃないからな?

まずは落ち着いて、現状を把握しよう。

「…変なことって?あいつ、今日は何を言ってたんだ?」

今日は松ぼっくり日和だなぁ、とか?

それくらいのことは、いつも言ってるからセーフだよな。

「え?えぇと…。ベリクリーデ隊長の部隊にいる友達によると…」

「あぁ」

「『私の中の聖なる血が騒いでる』とか…」

「!?」

「それから、『神が私を呼んでる、力が抑えきれない…!』とか…」

「…!!」

そ…。

…それって。

「面白いですよね、今日は厨二病を拗らせたみたいで、」

「今すぐ、隊舎にいる全員を避難させるんだ!」

「えっ?」

血の気が引いた俺は、慌てて立ち上がった。

その拍子に、横に置いていた紅茶のティーカップが引っくり返り。

ようやく完成していた、俺の三度目の正直書類にビチャッ、とかかり。

おい、結局四回目かよと、一瞬思ったが。

今は、それどころではなかった。

一大事だ。

「ど、どうしたんですかジュリス隊長?」

「良いから、避難だ!緊急時厳戒態勢を発令する!」

「え、あ…わ、分かりました」

俺の部下は、慌てて執務室から出ていった。

俺も、制服のジャケットを掴んで、急いで執務室を飛び出した。

ベリクリーデの中の、聖なる血が騒ぐ?力が抑えきれない?

それはつまり。

俺達が、一番恐れていたことが起きたということだ。
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