神殺しのクロノスタシスⅢ
俺は、焦りながらも、冷静に状況を判断しようとした。

ベリクリーデの中に封印されている、聖なる神が、再び動き始めようとしている。

いずれは、こうなるであろうことを予測していた。

でも、もっと先のことだと思っていた。

そもそも、俺の見立てでは。

かつて起きた聖戦のとき、邪神を封印したときに使った、シルナ・エインリー率いる、イーニシュフェルトの里の一族が使った、神殺しの魔法。

あのとき使った神殺しの魔法と。

ベリクリーデの中にいる、聖なる神を封じたときの、神殺しの魔法とは、発動したときの環境が違っていた。

聖戦のときの神殺しの魔法は、本来の手順通り、魔導師達の全ての魔力と命を注ぎ込まれていた。

故に、封印の力も強力だった。

しかし、ベリクリーデの中にいる、聖なる神を封印したとき。

あのときシルナ・エインリーは、俺達を殺したくないが為に、手加減をした。

『聖宝具』によって弱体化させ、俺達から限界まで魔力を搾り取ったものの。

イーニシュフェルトの里の一族が辿ったように…俺達を、生贄に捧げることはしなかった。

だからもしや、邪神を封じたあのときよりも、封印の力が弱いのではないか、と。

口には出さないものの、危惧していたのだ。

そして今、その代償が支払われようとしている。

ベリクリーデの中の、聖なる神が動き出そうとしているのだ。

あの自分勝手な神様のことだ。

復活した途端、シルナ・エインリーの裏切りを詰り、その裏切りに加担した俺達聖魔騎士団の魔導隊長達を、許しはしないだろう。

恨み骨髄に徹して、容赦なく俺達を殺しに来るはずだ。

手始めに、ルーデュニア聖王国を滅ぼそう、とか平気で言いかねない。

全く、聖なる神の名が聞いて呆れる。

あんたの方が、よっぽど邪神じゃねぇかよ。

ともかく。

絶対に、そんなことは阻止しなければ。

ベリクリーデのもとに向かって走り出した、そのとき。

「あら、ジュリスさん?」

「シュニィ!」

丁度良いところに、シュニィとばったり出くわした。
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