神殺しのクロノスタシスⅢ
「ど、どうしたんですか?そんなに息を切らして…」
 
落ち着いて話をしたいところだが。

今は、そんな時間がない。

ベリクリーデの中の神様が、いつ暴走を始めるか分からないのだ。

「聞いてくれ、シュニィ。ベリクリーデの中の聖なる神が、復活しようとしてる」

「…!」

さすがのシュニィも、驚きを隠せない様子。

しかし。

「アトラスに言って、緊急時厳戒態勢を発令してくれ。とにかく人を逃がすんだ」

「分かりました」

驚いたのも一瞬、シュニィは狼狽えることなく冷静さを取り戻して、頷いた。

頼もしい。

「それと、イーニシュフェルト魔導学院に連絡を。シルナ・エインリーを呼ぶんだ。最悪、もう一度神殺しの魔法を使うことになるかもしれない」

「…はい。覚悟しています」

今度は俺達、生き延びられないかもな。

シュニィも、それを覚悟しているようだった。

かつて、イーニシュフェルトの里の一族が辿った運命と同じく。

俺達は、シルナ・エインリーの使う神殺しの魔法の、生贄になるのかもしれない。

だが。

それなら、それでも構わない。

シルナ・エインリーは、もう充分責務を果たした。

彼が守るものの為に命を落とすなら、それで良い。

誰かの大切なものの為に、この命を消費するのなら。

何の意味もなく散っていくより、余程有意義な死に方だ。

「ジュリスさんは?」

「俺は、ベリクリーデのところに行く」

「!危険です、いくらあなたでも、聖なる神を前に一人では…!」

そうだな。俺も、聖なる神様に憎まれてる一人だからな。

見つけた瞬間、瞬殺されてもおかしくないだろうな。

だが。

「少しでも、時間稼ぎをするよ。それくらいの役目は果たさせてくれ」

「ですが…!」

「良いんだ。俺はもう充分生きてる。いつ死んでも構わないってくらいにな」

我ながら、ダラダラと長く生き延びてしまった。

それ故に。

残された、もっと若い人々の為に、この命を使いたい。

「早く行ってくれ。そして…出来れば生き残れ、お前達は」

「ジュリスさん…」

「そんな顔するなよ。俺だって、そう簡単にくたばる気はねぇよ」

何の因果か、ここまで長生きしてしまったのだ。

いつになったら命運尽きるのかねぇ、と思いながら、今日まで生きてきた。

俺の命運がまだ続くなら、明日も生きているだろう。

ここで命運尽きるなら、それまでのことだ。

未練はない。

だから、俺は最低限の言葉のみを交わして、シュニィと別れ。

急ぎ、ベリクリーデのもとに向かった。
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