音無くんは、今日も図書室で歌う
明日で最後か。
ていうか、卒業式の後に図書室なんて来ないよね。

と言うことは実質、今日が音無くんの弾き語り最後の日だったんじゃないの?
どうして今頃気づいたんだろう。

もっとちゃんと、お別れの言葉を言えばよかった。

あたしはここで、音無くんの弾き語りをずっと聴かせて貰っていた。


ありがとうと言いたかった。

音無くんの声は、周りに合わせて動くだけのあたしに、意志をくれた。

音無くんの歌はいつだって自由だったから。


どこまでも行けそうな歌だったから。
無限の音だから。


音無くんの居ない図書室であたしは涙を流した。春からずっと聴き続けた歌は、もう聴けないんだ。

音無くんに、もう会えない。


家に帰り、明日は卒業式だと言うのに、あたしはなんとも言えない感情のままベッドに潜った。


曲は作ってくれなくていい。
最後に……初めて音無くんの声を聴いた時の、あの曲が聴きたい。


あたしにとって思い出の曲になったから。


布団をギュッと抱きしめる。
拒否されるのが怖いなんて思ってちゃダメだ。最後なんだから。

アラームをいつもよりも早めに設定して眠った。
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