音無くんは、今日も図書室で歌う
「こんなに歌が好きで、どんな音も、メロディーや音階に聴こえるのに。【オトナシ】だなんて……音が無いだよ?はぁ。そんな苗字が、僕は嫌いなんだ」


ため息をついてそう教えてくれた。  

でも違うと思う。
あたしは、音無くんの名前はぴったりだと思うな。



「音無って、音が無いって事じゃなくて、音が無限に広がる、の音無なんじゃない?」



そんな風に言うあたしをチラリと見て音無くんは言うんだ。


「君はいいよね」と

「どうして?」


あたしの何がいいんだろう。
音無くんが羨むような才能なんてひとつもないよ。音痴だし。頭も悪いし。



天音(あまね)って名前。綺麗じゃん。天の音って書くでしょ?すごく綺麗な名前だ」

天まで響く音
天からの贈り物
音がどこまでも広がっていくみたいな、そんな名前だ。


そう音無くんは続けて言った。


名前を褒められただけ。
別にあたし自身を褒めてくれたわけじゃ無い。だけど、無性に恥ずかしくなって顔が熱くなる。

それに……


「音無くん、あたしの下の名前知ってるんだね」


名前を呼ばれたことがなかったから。
苗字さえ呼ばれないから……

そう言うと、ハッとした顔でいつもみたいに背を向けた。


音無くんの顔が、心なしか赤くなっているような気がした。
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