音無くんは、今日も図書室で歌う
ごめんね、嘘だよ。


そう言おうとした。冗談だって笑わなきゃ。


何言ってんの?そんな風に言われたら立ち直れないから。
困らせてしまうのは嫌だから。


冗談だと流せば、傷つかずに済むから。

なのに音無くんは言った。


 
「少し時間ちょうだい。卒業までに作るよ」



え?
驚き過ぎて声が出た。

音無くんは、何事もなかったかのように、再びいつもの席に座って、ギターを手に持った。

作ってくれるって言ったの?

自分の耳を疑った。


音無くんにさっきの事って……
そう聞きたかったけど、聞いて面倒くさがられても嫌だから、その後あたしは何も聞けなかった。


次の日図書室に行けば、いつも通り音無くんは自分でギターを弾きながら歌っていた。

その歌は何度も聴いた曲。
音無くんが、この曲は1番最初に作った物だと教えてくれた。


歌のことなら音無くんは少し話してくれる。自分のことや、ありきたりな話は絶対してくれないけどね。


あたしはその音無くんの初めて作った曲が好きだ。初めてこの図書室に来た時も、音無くんはこの曲を歌っていたから。

この曲を歌う音無くんに惹かれたから。


あたしもいつも通り、音無くんの斜め後ろの席に座り、眺めていた。


音無くんは歌っている時、楽しそうだな。
< 8 / 18 >

この作品をシェア

pagetop