音無くんは、今日も図書室で歌う
卒業式の前日。

あたしが曲を作ってくれと口が滑ったのは、卒業式の3ヶ月前。


3ヶ月も前だから、忘れられているのか、元々作る気がなかったのか、作ると言ったものの面倒になったのか。

そのどれかだろうと思っていた。

そして冒頭に戻るわけだ。


あたしは一度もあの日から、曲はどうなったかと音無くんに聞くことはなかった。
勇気がなかったから。

だけど、明日が卒業式だと思ったら、悲しくなった。


もうここで会うことはできない。

この図書室だから、あたしは音無くんと話せたのに。


もうここに来ることはなくなる。


あたしは音無くんの連絡先も知らない。
音無くんの好きな食べ物も知らない。
どんなテレビを見て、休日はどんなことをして過ごすのか、何も知らない。


あたしが音無くんについて知っていることと言えば、声が綺麗で、繊細な言葉を知っていて、細く綺麗な指でギターを触る事くらいだ。


あの日以来、名前も呼ばれていない。あれも、名前を知っていただけで、呼ばれた訳ではないか。

苗字でもよばれることがない。





そう言われる。
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