イケメン年下男子との甘々同居生活♪
***

 仕事が捗って仕方がない、なぜなら私は今最高に調子が良かった。
 営業部の人たちには申し訳ないけれど、数字もよく企画部内の案もすんなりステークホルダーに通り、新規も増えたので調子が良いに決まっている。
 あの日以来、志賀くんはお酒の気配もなく普通に生活していた。
 ただ少しだけ、ほんのちょっとだけ距離が近くなったのは認めるが、決して恋云々ではない。

「……ん!」

 美味しいご飯に、居心地のよい居住空間と気遣ってくれる同居人は想像以上に私生活を快適にしてくれ、体調含め凄く調子が良くなっていた。

「……さん!」

 最初はどうなることかと思ったが、これなら部屋が空くまで大丈夫なような気がしてくる。
 そ、そのたまに大人な関係に発展することもあるが、男女が一緒に住んでいたらたまには起きちゃうわよね、なんて自分に言い聞かせて納得させていた。
 ただ、不安なのは彼は私を一人の女性としてみているのかな? って、思う時がたまにある。
 
 自分の姿を手鏡で確認してみると、所々やはり二十代前半のころのような若さは消えかかっている。
 そんなことを考えていると、仕事が止まってしまった。

「ダメダメ、今調子が良いんだから集中しないと!」
 
 自分に気合を入れて仕事に戻ろうとするが、不意に顔のよこにヌッと誰かが寄ってきて、耳元で私の名前を呼ぶ。

「神薙さんってば!」

「え⁉ ど、どうかした⁉」

 あまりに急なことで思わず握っていたボールペンを落としてしまう。

「もう! どうかしたの? じゃないですよ。さっきからずっと呼んでいるのに」

 少し不機嫌顔になった手毬さんが私を見下ろしていた。

「そ、そうなの? それはごめんなさいね。それで何かあった?」

 彼女は私が落としたボールペンを拾ってくれると、そっと机に置いてくれる。
 
「あ、それなんですが……」

 キョロキョロと周りを確認して、私に顔を近づけてきて耳元でこう囁く。

「あの……実は相談したいことがありまして」

 チラっとメモ用紙を手渡してくる。そこにはお店の名前と電話番号が記載されていた。

「すみません、良いですか?」

 これはきっと飲んで話したいのだろう、私は小さく頷くと喜んでくれる。
 彼女は満足したのか自分の席に戻り仕事を再開しはじめた。
 私は、いまもらったメモに書かれたお店を調べてみると、意外なことに大衆居酒屋で彼女のイメージではあまりないが、私はかなり好きな雰囲気のお店だった。

「そう言えば、最近飲んでいないわね」

 前まで晩酌が大好きだったのに、今では控えている。
 原因は志賀くんがお酒の香りだけでも酔うということが分かってから、とにかくアルコール類は家には持ち込まないようにしていた。
 
 手毬さんとは会社の飲み会では何回もあるけれど、二人きりというのは今まで無かった。
 女性数名で集まってお洒落なお店って誘われたこともあったけど、その時は疲れていて断ってしまった記憶がある。

「あ、連絡しておかなくちゃ」

 鞄からスマートフォンを取り出して、同居人へメッセージを入れておく。

『今日は遅くなります。ご飯も要りません』

 つい最近になってようやく連絡先を交換したのだが、いったい私たちは今まで何をやっていたんだよと、ツッコまずにはいられない。
 しかし、タイミングを逃すとこれがまた不思議で中々聞き出せないんだよね。

 あとは送信ボタンをタップするだけなのに、自分の文章があまりにも淡白すぎないかと心配になってくる。
 
「スタンプとかも送ったほうがいいのかしら? それとも絵文字?」

 今の若い人って絵文字を使うのかしら? それすらもわからない。
 スタンプの欄には、デフォルトのやつ以外は入っていないので、かなり味気ない。
 散々考えたすえにたどり着いたのは、やはりそのまま送るということだった。
 たった一言でここまで悩んでいては体がもたないと判断し、送ったが既読の文字がついて返事がくるまで何度も見返してしまった。

「さて、残り片付けますか」

『了解! それじゃぁ先にお風呂とか済ませていますね』

 シャワー派の彼はいつも入浴時間が短い、それでいてあんなに良い匂いなんてやはり若さなのか?
 なんて馬鹿なことを考えていたが、ちらっと時計を確認するともう少しで退社の時間になってしまう。
 手毬さんも鬼気迫る表情で仕事をこなしていたので、私は自分の仕事の量を考えてこっそり彼女にメールを送信する。

『手伝うからファイル添付して送って』

 私のメールに気が付いた手毬さんは、こちらをチラっと見るとパッと喜び、さっそく送ってきた。

「う、ちょっとは遠慮しなさいって」

 送られてきた仕事量をみて、締め切りが明後日のも送ってくるあたり、やるわね! なんて思ってしまう。
 まぁ、遠慮されるより良いかもしれない、私は気合を再度注入し仕事へと向かっていく。

***

「ぷはぁ~! よかったです。本当にありがとうございました‼」

 無事に仕事が終わり、私たちは目的の居酒屋に到着しさっそくお酒を飲み始める。

「いいの、私も自分以外の仕事の進み具合を確認出来てよかったし」

 私の言葉に少しバツの悪そうな表情に変わるが、運ばれてきた料理をみるなりすぐに上機嫌、こうコロコロと表情が変わるあたり凄く可愛いと思う。
 ほっぺも柔らかそう、髪だって痛んでいないし……。
 卑屈になりそうな思考を無理やりとめて目の前に置かれている金色の液体を飲み込むと、全身に染み込んでいく。

「う、お、美味しい」

「ですよね! ここ、グラスまで冷えているので」

 確かに、若干白いほど冷えているグラスにビールなんて最高ではないだろうか。
 彼女もビールをちびちびと飲んで、楽しそうにメニューを選んでいた。

「それで? 相談あるんでしょ?」

 サラダとオニオンフライが運ばれてきたところで、私は本題にはいる。
 
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