イケメン年下男子との甘々同居生活♪
 あの飲み会以降、いたって平和な日々を過ごしており、心配していた手毬さんに関しては仕事に行くと志賀くんのことはあまり覚えていなかったようだ。

「確かに誰か居たような気がしますが、まっちょじゃなかったですよね?」

 彼女の男性を覚える基準があまりにも疑問視されるため、とりあえずもう放っておくことしする。
 墓穴は掘らないようにしなければならない、それでも私と彼の関係性は少しは変わった感じがした。

 そんな頻繁にとは言わないけれど、体を重ねることもあり家の雰囲気も今までよりも柔らかい感じがしてきている。
 最初は早く部屋が空かないかと思っていたが、慣れてしまえば全然大丈夫だったし……そ、それに好きな人と同じ空間に居るのは悪くない。

「でも、本当にいいのかしら?」

 告白なんて甘ったるいことは言わないまでも、やはりお互いの気持ちは確かめ合いたいと思うのはダメだろうか?
 だが、思っていても行動に移せないでいるのは私の年齢もそうだが、今の関係性が一気に壊れてしまいそうで怖かった。
 そんなことを考えていると、次第に季節は移り替わっていき寒さが増してきたように思える。
 仕事に行く用の靴を秋ようにコッソリ変えると私は家を出た。
 
「行ってらっしゃい」

「うん、樹くんも今日はテストなんでしょ? 頑張って」

 いつからか、志賀くんと呼ぶとムッとされることが多くなり、今ではお互い下の名前で呼び合っている。
 私としては、ベッドの時に下の名前で呼ばれていたのはちょっと特別な気がして、なんとなく良いなぁって思っていたが、変だろうか?
 彼は今働いている会社にアルバイトから正社員としての雇用が決まっていたので、就職活動は滞りなく終わり残すは卒業だけという状況であった。

「さて、頑張らなくちゃ」

 私も自分に気合を入れて出社する。
 今日は新規のお客様から直接連絡を受けて私が行く日でもあった。

「もう! 何やっているのよ」

 営業の肥田さんが、数日前に私に頭を下げてきた。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

 病院のベッドで平謝り状態の肥田さん、ベテランの営業さんで成績も悪くない彼がまさかぎっくり腰で動けなくなり、この案件をこちらに頼めないかとお願いされてしまう。
 もちろん、他の営業さんにまわせないのかと聞いても、急すぎて予定が合わずに無理と断られてしまったようだ。
 だからって、なんで私なのよ⁉ 今は、営業の仕事はあまりせず企画部の仕事を頑張っていたが、半分以上営業部のままである。

「はぁ、わかった。肥田さんの頼みなら……でも、もし失敗しても恨まないでね」

「恨むなんて、それに僕より神薙さんが行ったほうが契約率高いから、むしろ安心しているほどだよ」

「ダメよ、そんな他力本願じゃぁ」

「いやいや、本音だよだから早く営業部に戻っ……」

「だから無理よそれは」

 私は彼から資料を受け取ると、お見舞いの品を置いて部屋から出て行く。
 嬉しそうにフニフニとしたお腹の上に食べ物を置いて食べ始める姿を見ていると、肥田さんのお願いは断りにくくなってしまう魔法があった。

「ほんと、あの人だけのスキルよね」

 階段を降りていき、外にでると蒸し暑さの奥にスッと冷たい風を感じた。
 もう少しで秋かと思うと、どうにかこの暑い夏を乗り切れそうで安心する。
 
 それから、今日まで私は準備を整えて連絡を受けた会社に向かっている。

「ここね」

 そこまで大きな会社ではないけれど、少数精鋭を売りとしており資本金以上にしっかりとした体制を築いていた。
 本業はベトナムやタイなどへ車関係の輸出がメインだけど、今は手広く様々な商材扱うようになっているようで、会社のホームページには求人情報も掲載されていた。

「よし、行くか」

 腕時計で時刻を確認し、一階の受付に挨拶すると奥に通されて待っている間にプレゼンの準備を整えていく。

「す、すみません、お待たせいたしました」

 背後から人が慌てて入ってくると、私の前にくる。

「いえいえ、全然まっ……」

 思わず言葉に詰まってしまう、それは相手も同じだったようで、私以上に驚いていた。

「も、もしかして紗香?」
「え、えぇ……久しぶりね」

 なんてこった、この人口が多い場所で再度巡り合うなんて考えもしなかった。
 当時と違い、清潔感のある短髪に幼さが抜けてしっかりとした印象になり、すっと整った顎のラインと優しそうな瞳は今でも変わっていない。
 一応お互いの名刺交換をするが、私は彼の名前を知っていて、当然彼も私の名前を知っているし、携帯電話番号のところを見ると当時と変わらない番号が記載されている。

「どうも、改めまして有限会社 ハイルーフの海外担当の漆田(うるしだ) 恭平(きょうへい)です」

 笑顔で挨拶されてしまう。 私も名刺に書かれている通りに自己紹介をすると席に座ってメモ帳を取り出した。
 ど、どうしよう……かなり気まずい、相手はそれほど気にしていないようだけれど、まさか大学時代に付き合っていた人とこんなところで再会するなんて、神様どんな悪戯よ。
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