イケメン年下男子との甘々同居生活♪
「懐かしいな、元気にしてた?」

「え、えぇ、元気だったわよ」

 同じ学年で学科も同じだった私たち、彼は人気者だった。中高とサッカー部で活躍し大学では同好会程度で軽く汗を流しては勉学とアルバイトをする生活、見た目の良さもあってか女性が常に周りにいた記憶がある。
 それに比べて私は地味な感じで、少し遊べる程度のアルバイトをしていた程度で目立つ存在ではない。

 だけど、二年の夏前に突然彼から告白された。
 当然、ビックリしたし最初は嘘なのでは? なんて思ってしまい勢いで断ってしまった。

 私の返事を聞いて、本気で落ち込んでずっと沈んだようだったのを見て、本当に私のことが好きだったのだと思い、後日改めて私から経緯を説明し謝り、お付き合いを始めていく。

「ほ、本当だよ! 神薙さんのことがずっと好きで……そ、その」

 自分に自信がない、漆田くんのような人が私のことを好いてくれる理由なんて一ミリも無いと思っていたから、そんなことを伝えると彼は笑いながらこう言ってくれた。

「そりゃ、周りが見る目がないんだよ、こっちにしてはラッキーだったけど」

 その笑顔に勇気を貰えたきがして、それからは一緒にいる時間が増えていく。
 お互い一人暮らしだったこともあって、自然と住むような感じになっていった。
 
 そんな楽しい時間が四年の終わりまで続くとは当時は思っていなかったが、私たちは喧嘩や楽しさを共有し大学の卒業間近まで付きっていた。

 じゃぁ、どうして別れたのかと言えば、理由はたぶんお互い分かっていない。
 就活で手堅く前の会社の内定を貰えた私と違い、漆田くんは中々決まらずに就活の範囲を県外へと広げていくしかなくなった。

「大丈夫だよ、きっと決まるから」

「……あ、うん、そうだな」

 憂鬱そうにスーツに着替えてアパートを出て行く、その日から数日私の元へ帰ってこない。
 徐々に連絡する回数は減っていき、県外の就職先が決まり引っ越しの日を境に私たちは連絡を取り合わなくなってしまった。

 たぶん、どこかで心の距離ができていたのだろう、きっかけが欲しかっただけで明確な理由はなかった。

「そっか、今はここに勤めているんだ」

「えぇ、そうよ。漆田くんもこっちに戻ってきていたのね」

「漆田って、前みたいに呼んでくれよ。まぁ、そうだな、県外に数年いたけど空気が合わなくて戻ってきたんだ。前の会社のスキルを見込んで雇用していただけたおかげで今の自分がいる」

 さらっと、名刺に書かれていた役職は課長、小さい会社だとしても立派に出世している。
 それから、昔話をちょっと交えつつ仕事の話を進めていく。
 なんとなく、気まずい。 今日だけ、あとはやっぱり肥田さんに代わってもらうしかない。
 
「えっと、今日は私が代役で来ましたが、次回以降は弊社の肥田が担当いたしますので」

 淡々と告げると、彼は何か考える素振りをして顔を近づけてきた。

「ずっと紗香が担当してくれるんじゃないの? それは残念だな」

 名前で呼ばれることに反応してしまう、肝心の営業内容だがそちらは問題ない感じで、来週には返事をするがきっと色よいだろうと教えてくれる。
 
「それでは、本日はありがとうございました」

 部屋から出ようとしたとき、彼も立ち上がり見送ってくれる。
 変に意識していたのはたぶん私の方で、漆田くん本人は純粋に私に会えたことを喜んでくれていた。
 
「何よ急に……」

 帰りの電車の中では、席に座らずに立って外を見ていく。
 流れる景色に交じって過去の想い出も同時に溢れてくる。 大学と言えば彼との想い出ばかりで、もちろん友だと旅行にも行ったし飲み会も参加した。
 でも、あまりにも一緒にいる時間が長かった。

「ヤメ、ヤメ、やっぱりダメ」

 仕事に私情が入り込んでしまいそうになる。 早く肥田さんが復帰することを願いながら会社へと向かっていく。
 こんな近い場所でずっと会わなかったんだから、なんで今更巡り合ってしまうの?
 つい先日、年下の志賀くんに恋心があると自覚してから、まさかの展開に自分でも驚いてしまう。

「まぁ、何事もないと思うけど」

 そう、私と漆田くんはあくまでビジネスの関係、動揺しているのは私だけなのだから、このまま何事もなく過ごしていれば良いだけ。
 変に考えてしまうからダメなんだ。そうだ、今日の夜ご飯はトンカツにでもしよう。
 そんなことを考えるようにしながら、会社に戻り報告を済ませると喜ぶ上司たち、まだ本決まりではないけれどたぶん大丈夫だろうというのは、伝えていた。

 帰り道に、お肉屋さんでトンカツ用のお肉を購入しカツカツと歩いていく。
 先に連絡していたので、志賀くんも楽しみにして待っていてくれるそうだ。

「ただいま、ごめなさいね遅くなって」

「全然、こっちも今帰ったところなので」

 最近帰りが遅いことが多々あった。 大学が終わってからアルバイトに向かっていると言っていたが、何をそんなに頑張っているだろうか?
 そもそも、この部屋を購入できる家庭なのだから、仕送りだけでも十分にやっていけどうだと思うのは私だけだろうか?

「じゃぁ、準備しちゃうわね」

 私がカツの準備をしている間に、隣で器用にキャベツを切っていく。
 リズムよく、ジュージューと揚げる音とまな板を叩く音がなんとも居心地よく、今日の出来事が薄れていくのがわかった。

 
 
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