イケメン年下男子との甘々同居生活♪
 家に戻るまで、お互いなんとなく無言を楽しんでいる感じがした。
 嫌とかではなく、なんだろうこう説明が難しいのだけれど、とにかく心地よい空間でそれが崩れるのが怖かったのかもしれない。
 
「おぉ、やっぱり早いわね」

 あっという間に家に到着すると、彼は近くに借りてある駐車場へと車を届けてくる。
 もちろんマンションにもあるけれど、あのクラスになるともう少し厳重な場所のほうが安心なのかもしれない。

 先に戻っていて、と言われていたので鍵を開けて入っていると、彼が戻ってきた。

「ただいま」

「お、おかえりなさい」

 なんだか不思議な感じがする。
 志賀くんは、玄関先で私を抱きしめると肩に顔を埋めてきた。
 それに応えるように、私も背中に腕をまわして力を入れてみる。
 
「約束通り映画観る?」

 このままお風呂に入っていつも通りに眠るのはなんとなく惜しい感じがしたので、提案してみると首を横に振られてしまう。
 それじゃぁ? 何がしたい? なんてことを聞いてみると、そのままソファーに案内され近い距離のまま会話がしたいと言われてしまった。

「そう、なら何を話すの? それとも、私が今疑問に思っていることを聞いてもいいかしら?」

「どうぞ、別に隠していたわけでもないんですが……ちょっと変わっているなって思われても嫌だったので」

「だったら、あなたの全てを教えてくれない?」

 こくりと頷く彼、そして話し出してくれた。
 まずは、両親が居ないこと、これは正直驚いたが小さいころに二人とも亡くなっており、記憶が殆どないから気にしないって言ってくれる。
 育ての親は母方の祖父母さんで、早く二人を楽にしてあげたいって思って頑張ってきたらしく、それで料理も家事も完璧にこなせていたそうだ。

「それで、大学も無事に卒業できそうな人があんな高級車を持つ理由は?」

「そ、それは、金銭面で負担を随分かけてきたから、大学は自分のお金で通うって言ったんだ。だから考えて頑張ってみた。ある日ちょっとした出来事があって、それが切っ掛けで事業を始めてみようって思ったんだけど」

 なるほど、って納得できないけれどどうやら彼は些細な出来事を切っ掛けに起業し、今まで私が営業で訪ねていた会社がまさかの彼のモノだったなんて、誰が信じられるだろうか?

「でも、清掃の仕事をしていたんじゃないの?」

「そうそう、それは理由があって、あの場所から会社を見ると思うんだ……もっとこうした方がよいって、いろんな人と出会ったり嫌なところも見えたりして、凄く勉強になるんだよ。だから、進んで清掃の仕事をしていたんだ」

 いや、言うは簡単だけどかなり難しいことだと思う、大学の合間に仕事をして清掃までするなんて、並大抵の努力じゃ無理だろう。
 私にはそんな無理をしているような素振りは一切見せずに一緒に過ごしていたのかと思うと驚いてしまう。

「これから、大学は卒業できる。そうなれば本格的に社長業に集中していくつもりなんだ、それで気合をいれるためというか……その」

「それで、あの車ってわけ?」

 こくりと頷くあたり、可愛いと思ってしまう。
 まあ、自分への頑張りが何かの形になるのは嬉しいと思うし、モチベーション維持にも繋がる。

「良かったじゃない、頑張ってよ。それで、もう一つ、前から私のことを好きだって言ってたけど、それはどうして?」

 照れた表情に変わり、ポリポリと頭を掻いて考えていた。
 そして、小さな声で話し始める。

「床掃除をしていたとき、大抵の人は挨拶なんてしてくれないし話しかけてもくれないんだけど、紗香さんだけは違って挨拶もしてくれて、声もかけてくれたんだよね」

 そうだったかしら? 正直あまり覚えていないけれど、それだけで好きになるって、漫画の世界よりも容易いように思えてしまう。

「あ、なんていい人なんだろうって、思ってそれから観察するようになったんだよね」

「え? か、観察って?」

 なんだか急に怖くなってくる。
 
「べ、別にそんな意味でじゃなくて、普通にどんな人なんだろう? って、興味がわいたというか……そしたら、会社にくるたびに笑顔だし気さくに話しかけてくれるし、話の内容も楽しいしで、なんだろうこの人といると元気になれるって感じたんですよ。お仕事も一生懸命ですし、それに、す、凄く綺麗ですし」

 一番肝心の部分が聞えないが、まぁ、良しとしよう。
 私の人柄に惚れてくれたのはわかったので、十分満足した。 いや、惚れたって……自分で言って凄く恥ずかしくなってくる。
 
「でも、俺のことただのアルバイトだってしか認識していないのはわかっていたので、いつか声を掛けようとは思っていましたが、突然家に現れた時は本当にびっくりしました。でも、これはチャンスかもしれないって思いましたが、まさか言葉より行動が先走ってしまうとはすみませんでした」

「大丈夫、今となっては素敵な想い出だから、それに、わ、私も志賀くんのこと好きになれたんだから、結果的には良かったんじゃない?」

 こうして、好きな人と恋人という関係になれたのは嬉しい、でも、唯一物申すなら気持ちを伝えているって、もしかして居酒屋で言ったあの「好きだよ」っていう言葉のことではなかろうか? 
 もし、そうだと言うなら、あれはどう考えても真剣さが足りない。
 彼が真剣だと言っても、伝わった側としては全然足りないと思うのは私だけだろうか?

 だから、もう一度確かめてしまう。
 
「さや……ん⁉」

 今度も私からキスをする。
 
「ごめんなさい、もう一度言ってくれる?」

「え? あぁ……大好きですよ紗香さん」

 返事を聞いてまたキスをした。
 もう何度もしているのに、新鮮な感じがするのはなぜだろう、でも口付けだけでお互いが高ぶっていくのがわかる。
 きっと、私の吐息に混ざる熱が増していくのを感じ取ったのか、彼の下も熱を持ち始めていた。

「ねぇ、私から誘うのってどう思う?」
「そう言われれば一度も無いかもしれなませんね、そうだったら最高ですけど」

「そう、ならシてみない?」
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