イケメン年下男子との甘々同居生活♪
 買い物から帰宅すると、荷解きをしながら忙しく過ごしていく。
 不要なものはまとめて、後で業者に引き取ってもらう手続きを進めていった。

「これって、売れないんですかね?」

「売れると思うけど、売りたい?」

「なんだか面倒ですね、でも、いくつかはどこかの国に行くんですよね?」

 政策の一つで、使えそうな衣類は貧しい国に贈られると記載されていたけれど、本当に行くのかはわからない。
 だけど、ただ捨てられるよりはマシな気がするので、とりあえず、着れそうな服とそうでないやつに仕分けしていく。
 それに、ただ生活しているだけでなぜ物は増えるのだろう……靴とか知らないうちに増えているのよね。

 気が付けば、夕方になっている。
 急いで片付けてからご飯の準備をした。

「今日は何か食べたいのある?」

「そうですね、餃子とか?」

「テイクアウトでもOKなら作ろうかしら」

 作るという表現が間違っているのはわかるが、意外と面倒な料理を言われて普段なら全然大丈夫なのだけど、疲れているので簡単な料理にしてほしい。
 それに、今から買い出しも面倒だった。

「それじゃぁ、お茶漬けとか?」

「ずいぶんと簡単になったわね、別にいいわよ」

 インスタントのお茶漬けの素を用意して、おかずも適当に作ると食べ始める。
 こんな感じの食事も悪くない、久しぶりに食べると美味しいと思えるし、時短もできて良かった。
 雑多な日曜で明日からの仕事が少し憂鬱だけど、楽しかったのは間違いない。

「今度は土曜日に行きましょうか」

「そうですね、日曜日は休みましょう……」

「でも、土曜日って疲れ残っているのよね」

「それ言ったら本当に動けなくなっちゃいますよ」

 お互い笑う、このなんでもない時間ですら楽しく感じられるなんて不思議でならない。
 今、自分が幸せなんだなと思わずにはいられない。
 こんな時がくるなんて、ちょっと前は思わなかった。

「不思議ね」

「え? 何がですか?」

 私たちがこうしていることよ……なんて言わない。
 ただ「なんでもないわ」とだけ言うと、首をかしげてくる。
 食後はゆっくりしていく、好きな漫画を読んだり本を読んだり、ただ疲れていたので自然と瞼が重くなっていく。

「寝ますか?」

 気が付けば、遅い時間になっていた。
 私は頷くと部屋に行ってベッドにもぐりこんだ。
 樹くんも遅れてくると、パチッと部屋の電気が消されゴソゴソと入ってくる。

「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

 軽くキスをして、手をつないで眠る。
 心地よい疲れと優しい癒しが同時に重なり、私はまどろみを感じることなく眠りの世界へと入っていった。

***

「う……ん」

 久しぶりに出かけたことで、疲れが尾を引いているのか、いつもより深く眠っていたようだ。
 隣では、スピーっと可愛げな寝息をたてている樹くんがいた。

「あれ? まだ早いのかしら」

 時間を確かめるためにスマートフォンで確認してみると、一気に目が覚めていく。

「うそ!」

 いつもより、だいぶ遅い目覚め。
 私は慌てて起きると急いで準備を始めた。 ご飯を食べている余裕はない。

「あ、おはようございます」

「おはよう、ちょっとヤバいかも」

 彼も時間を確認すると、細めていた瞳が大きくなっていく。
 
「うわ……これヤバいんじゃないですか?」

「そうよ! 遅刻はマズイ」

 ぱぱっと化粧をしながら準備をしていくが、いつもの手順をかなり飛ばしてしまう。
 後ろでは樹くんがワサワサと動き出して、着替えると家を出ていく。

「もう! 何やっているのよ私は」

 アラームをセットしておらず、焦りだけが増していく。
 着替えも終えると、鞄に仕事道具を詰め込んで出発した。
 
 建物の外に出ると同時に私の近くに車が停められた。

「乗って!」

「え? でも……」

 チラッと時計で時間を確認してみると、今からのタイミングでは電車には間に合わない。
 車でも可能だけど、ちょっと早い程度だろう。 だけど、そのちょっと早いというのがギリギリの境目だった。

 気が付くと、私は彼の隣に座って街を眺めている。
 いくら早い車だと言っても、信号もあるし渋滞もある。
 それでも、電車に揺られているよりは幾分か早いような気もした。

「ごめんなさいね、変なプライドがあって」

「? 変じゃありませんよ。それに俺は今日は仕事も午後からだし、大学も一コマだけなんで余裕があるんですよ」

「午後からのなの? それじゃぁ、帰りは遅い?」

 そんな会話をする余裕まででてきてしまう。
 いつもなら、時計を常に確認してイライラしてしまっているだろう。
 私が唯一、入社してから遅刻は一度もなかった。 休んだことはあるけれど、それは病気や親族のお葬式などで普段はなるべく休まないようにしている。

 そうこうしているうちに、見慣れた景色に変わっていく。
 いつも電車の中ではみることができない街並みを私は見れたことに少し感動を覚えてしまう。

「紗香さんの会社の前で良いですか?」

「え? あ、そうね。お願いできる?」

 この時、私はあまり深く考えずに答えたことを後悔してしまう……もう少しだけ遠くに停めてもらうという考えがなぜ浮かばなかった!
 信号が青に変わると、ブオンッ! と、音をたてながら会社の前に走っていく。
 ただでさえ、若干目立つ車なのに余計に目立ってしまって、顔見知りが数人こちらを見ていた。

 そして、上に開くドアから私が現れたのだから、もちろん驚いており……その瞬間思ってしまった。

「あ……」

 バレたと。
 別に隠していたわけではないけれど、こうも派手な登場シーンを演出したいわけではない。
 しかし、遅刻は免れたことには感謝しなければならないが! ちょっと離れた場所で瞳をキラキラさせている手毬さんを見つけて軽くため息をついてしまう。
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