イケメン年下男子との甘々同居生活♪
「え?」

 いきなりのことで、驚きなどの感情の前に体が止まってしまう。

「紗香さん……」

 熱のこもった声が首筋に触れると、背中がふるっと、震えてしまった。
 
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」

 それに、名前で呼ばれた気がしたが……なんて、ことを考えていると、彼の細い髪の毛が私の頬に触れ、そのまま顔を胸に埋めてくる。

「え、ちょっと⁉」

 スリスリと鼻先を鎖骨のあたりに何度も、当ててきた。
 くすぐったい感じに、力が抜けていく。

「紗香さんの香り凄く素敵です」

 ぽわっとゆっくり顔をあげると、今朝よりも近い距離に志賀くんの顔が現れた。
 しかし、何かが変だ……それに顔が真っ赤である。
 まさか、いや、まさかね。

「も、もしかして酔ってる?」

 フルフルと首を小さく振って、また私の服に顔を埋めてきた。
 本当なら、大声をあげて叫ぶ場面なのだろうが、なぜかそうできない。
 少し力を入れると、なんの抵抗もなく離れていき、フラフラっとソファーに倒れこむ。

「まさか」

 急いで冷蔵庫に向かい、私が提供した飲み物をみつけ、ラベルをよくよく確認してみると、そこにはしっかりと書かれている。

「あ、アルコール度数一パーセント⁉」

 たった、一パーセントでもお酒ではあることは間違いないが、ひと口飲んだだけで、あんな風になってしまうなんて、だから、私が飲もうと誘うっても断ったのか、彼は恐ろしくお酒が弱いのだ。
 しかし、志賀くんも忘れているほど古いお酒がなぜ、真新しい冷蔵庫なんかに?
 
 ふと、疑問に思ったが、今は彼をどうにかしなければと思い、冷蔵庫に戻しドアを閉めると、背中からゆっくりと優しく手と体が私を包み込んでいく。

「――⁉」

 またしても、突然のことに今度は心臓が飛びはねてしまう。
 ドキドキと激しく脈うち、言葉がだせなかった。

「紗香さんどこに行くんですか?」

 寂しそうな声に、彼の鼻が首筋にそっと置かれる。
 
「ど、どこって、どこにも行かないわよ」

 昔に実家で飼っていた猫を想い出してしまう。
 少しでも離れると、寂しそうな表情をするので、ついつい、家の中だとどこにでも連れて行ってしまっていた。

「よかった、でも……」

 安心したのか、一瞬力が抜けたかと思うと、更にぎゅっと抱きしめられる。
 彼の体の感触だけでなく、今度は熱まで伝わってきてしまう。

「ね、ねぇ、酔っているのかもしれないけど、これはちょっと……」

 さすがにマズイ状況になっていることを理解してきたので、志賀くんを引き離して横にさせようかと思い、振り向こうとしたとき、私の視線の高さに彼の唇がみえた。
 その瞬間、今まで忘れていたが、夜の出来事を想い出してしまい、動きが止まる。
 そんな私を見てか、にっこりと優しく微笑み、ゆっくりと唇が近づいてきて、私の少しかさつく唇と触れ合った。

「‼」

 ほんの数秒もない時間なのだろうが、確かに私と彼は触れ合ってしまった。
 すっと、熱だけを残し離れていく優しさに、言葉が出ない。

「紗香さん」

 潤んだ瞳と、淡いピンク色をしている頬が、なんだか年齢以上に幼さを感じさせる。
 ぴくっと腕に力を入れてみても、相手から力が入っているのか、動かせそうもなかった。

(え? 嘘、ナニコレ?)

 段々と頭の中が混乱していく、少しだけ冷静でいた思考も風邪をひいたときのような感覚になり、ぽぅっと視界が霞んでいく。
 何か喋らないといけないと思い、口を開こうとすると、もう一度キスで塞がれてしまう。

「……!」

 わずかな隙間から入り込んでくる柔らかい感触が久しぶり過ぎて、どう応えてよいのかわからない。
 そ、それに、なんて優しいのか……思わず体の力が抜けていってしまう。

「ねぇ」

 ゆっくりと、腕の力が抜けたかと思うと、腰にまわされグイっと力が込められた。

「え?」

 まだ呆けている頭の中、一気に彼に寄せられ、私はそのまま自然の流れで、彼の寝ているソファーへと倒れこんでいく。

「待って、私、まだお風呂入って……」

 ここまで来たら、あとの感じは嫌でも想像がつく、動いたときにふと自分の一日動いた香りが気になってしまう。

「大丈夫ですよ、紗香さんの匂い、全部大好きですから」
 
 そう言って、髪に鼻を近づけて軽く息を吸い込まれてしまう、そして、背中が全部ソファーにつくと、同時に彼は私の鎖骨にちろっと舌を当ててきた。
 
「んっ」

 思わず反応してしまう、少しざらついた感触に全身が過敏になってしまっている。
 むしろ、本当に久しぶり過ぎて手も動かせないでいた。
 すっと、後ろに手がまわってきたかと思うと、服の上からでも簡単にホックを外されてしまう。

(て、手慣れすぎていない?)

 それに比べ、私は……そう思っているうちに、彼は私の開いた場所に顔を埋めてきた。


***

「や、やってしまった……」

 文字通り、ヤってしまったのだ。
 華奢な志賀くんが隣で眠っており、二人横になっても十分な余裕がある。
 猫っ毛の髪をさらっと撫ででみると、静電気で私の手にふわっとくっついてきた。

「可愛い寝顔」

 あどけなさが残る顔、だけどベッドの中では全然違って、正直ついていけなかった。
 ふと、テーブルの上に手のついていない料理が見える。

「片付けないと」

 私が起きようとすると、僅かに力が入る腕にぽふっとソファーに戻されてしまう。
 それに、いま気が付いたが、も、もしかして立てない? 自分の体に力が入らない。

「う、嘘でしょ」

 年下の彼に、かなり主導権を握られ、一方的と言ってよいほど私は感じてしまっていた。
 突然始まった同棲生活、なんとかうまくやれるかな? なんて、思ったけれど、なんだか雲行きが怪しい。

「志賀くん、私のことどう思っているんだろう?」

 あの日のキスからの出来事を想い返そうとするも、力の入らない体が、私を眠りに誘ってくる。
 さっきの仕返しと思い、私も彼の髪の香りをすっと吸い込むと、優しくもあり温かな香りがした。

「もう、今日は寝ましょう」

 掛け布団を直して、隣にある温もりを感じながら、私は目を閉じた。
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