Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

初恋を拗らせたシューベルト《2》




 俺の母親は自分で言うのもなんだが変わり者である。天真爛漫で誰からも好かれる術を持っていて、若い頃は多くの男性と関係を持っていた。俺のほんとうの父親が誰なのか生きているのか死んでいるのかもわからない。俺が面倒を見ていた年の離れた双子の弟たちとも父親は異なっている。俺は母親に似ることなく、双子の方が人たらしな母親に似た。

 幼い頃に気まぐれで彼女が買ってきた玩具のピアノは双子の父親が俺に買ってきたものだ。いま思えば結婚していたのかも定かではない、ほんの数年間一緒に暮らした男。母親に暴力をあげることはなかったが、ギャンブルから抜け出せず、借金を肩代わりさせられそうになったから子どもたちの面倒を見る代わりに縁を切ったのだとからから笑いながら話す彼女を見るのが俺は嫌いだった。その後も自分の店の常連客や、バイトの子、下手をすると俺と同年代の年下のホストまで巻き込んで、彼女は本能のままに生きていた。

「どうしてお袋はいろんな男の人と関係を持つんだ?」と、素朴な疑問をする俺に、母はつまらなそうに応えて、俺を呆れさせたものだ。

 ――ん、いつか本物の王子様に出逢うためかしら。
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