Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 ――母親や義父に介入される前に、まずは愛人だと思いこんでいる彼女をどうにかしなくては。

 彼らは俺が一途に追いかけていた初恋の相手が“星月夜のまほろば”で別荘管理人として生活していることなど知る由もない。元ピアニストで前土地所有者の後妻という説明をしようものなら、紫葉リゾート社長の花嫁にふさわしくないと袋叩きにされかねない。

 義父の紫葉章介が俺の母親を後妻に迎えた際も、バツがいくつついているかわからない女を社長夫人とは認めないという勢力が雨後の筍のように湧いたのだ。母親は気に病まないが、精神的に脆いメネのことを考えると強引にことを進めるのは厳しいとしか言いようがない。
 そもそも得体のしれない後妻の、得体のしれない連れ子が、更に得体のしれない娘を嫁を迎えるとなって、はいそうですかと素直に周囲が認めてくれるとは思えない。特に自分のことを反面教師にしている母は、バツのついた女を自分の息子の嫁にすることを生理的に嫌がりそうだ。

「……ネメ」

 さんざん俺に啼かされて力尽き、すやすやと眠っている愛しい女性の額にそっとキスをして、俺は小声で呟く。

「俺は、諦めないからな」

 社長の愛人として後ろ指をさされるようなことだけはさせたくない。
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