Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
どうすれば、彼女を祝福された花嫁にすることができるのだろう。
ネメがピアニストとして華やかに復活すれば、その注目度を利用して説得できると考えていたが、彼女はもうこの地で隠居する気満々である。そんなに亡き夫との想い出を守りたいのかと不安になってしまうほど。
それでも俺は、彼女を守りたい。生涯をともに歩む愛する女性のすべてが欲しい。
バツのひとつやふたつ、たいしたことないと体現した義父のように。
矛盾しているのは自分でも理解しているが、不安がるネメを寛容に包み込んで、逃げ出さないように繋ぎとめられる男に俺はなりたい。身体はもちろん、繊細な心も、ぜんぶ。
「……だから早く、身体だけじゃなくてその心も、俺の方へ堕ちて来いよ」