Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
初恋を拗らせたシューベルト《3》
長野支店へネメを連れて行って以来、俺はふたたび彼女を抱くようになっていた。心は前の夫のものだと理解していても、肌を重ねて互いにふれあっていくことで、すこしでも距離を縮めたかったから――……
はじめての夜のように痛い痛いと泣き叫ぶこともなくなり、彼女の無垢な身体は俺の手によって淫らにうつくしく作り変えられていった。
さながら、アンティークのピアノを調律するように。
* * *
四月のおわりに須磨寺が亡くなって間もなく一ヶ月が経とうとしている。
別荘地“星月夜のまほろば”はゴールデンウィークからシーズンを開始したが、今年のゴールデンウィークは連休が短いため例年より利用者が少ないみたいだった。
五月最後の週明けの月曜日。土日に一泊二日で利用があったコテージの掃除をするのだとネメは朝から張り切って屋敷から飛び出していく。彼女が仕事をする姿をなかなか拝めずにいたので、今日こそはと俺も彼女についていくことにした。
「アキフミまで来なくていいのに」
「現場を知ることは大切だろう? それにしても新鮮だな、ネメのエプロン姿」
「似合う?」
「ああ、俺以外の男に見せたくないくらいだ」
「それ、ほかの女の人にも言ってない?」
「言うわけないだろ……ったく」