Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
似合うとか可愛いとか言っても、彼女はなかなか信じてくれない。ピアニストとして舞台に立っているときは凛とした佇まいを見せていたが、きっと精一杯の強がりだったのだろう。
人前でピアノを弾けなくなって自信喪失してしまった彼女は、三年経ったいまも、変わり果てた自分の姿を気にかけている。
「……わたしね、アキフミが抱いてくれないのは、ガリガリに痩せちゃったからだと思ったんだ」
「何を莫迦なことを」
「ピアニストとしてデビューした頃は、もうすこし肉があって、ふくよかで健康的だったから。胸がちいさくなったいまのわたしじゃ、アキフミを満足できなかったのかな、これじゃあ愛人失格だな、って思ったの」
――愛人以前に、俺はネメを花嫁にしたいのだが。
彼女は俺に心を開いてくれてはいるものの、相変わらず愛人としての立場を強調している。バツのついた未亡人に現を抜かしてないで、飽きたらとっととふさわしい女性を探せと、遠回しに拒んでくる。
紫葉グループ内で俺の花嫁探しが噂になっていると知ったら、彼女はどんな顔をするだろう。