Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 利用者と直接顔を合わせることは殆どないというが、彼らが利用した後、こうしてコテージに入り、室内の点検をはじめ洗濯や掃除を行うのだという。別荘管理人の仕事をネメが慣れた手付きでせっせと行っていくのが、なんだか新鮮だった。

 レースのエプロンを着て作業する姿の彼女も可愛らしく、仕事でなければその場で抱きしめて真新しいシーツの上に押し倒して悪戯してしまいたくなるほど、俺の目に毒だった。
 いままではろくに家事もできずにいたというが、この三年間で別荘管理の仕事が板についたらしい。まるでハウスキーパーのように素早く寝台に新しいシーツをかけ、内風呂をピカピカに磨き上げ、室内の備品や消耗品のチェックまで半日足らずで終わらせていく。繁忙期だと五棟の別荘が同時に利用されるため、ネメだけでなく屋敷の家政婦たちも総動員で働くのだという。

「別途人を雇うことは考えなかったのか?」
「もともと屋敷に住み込みで働いている人間は別荘地の雑務も業務内容に含まれているのよ。シーズンがはじまると通いの家政婦を別荘管理のために雇うこともあるけど、今年は夫のことや土地の引き継ぎがどうなるかわからなかったから、募集をかけてなかったの」
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