Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
目の前にはチョコレートブラウンの三角屋根の歴史的な建物があのときと変わらないまま鎮座していた。
「須磨寺さま、紫葉さま、お待ちしておりました」
牧師がわたしとアキフミの前へ姿をあらわす。
アキフミの手には夫の骨壷が入った箱がある。わたしが持つと言っても、彼は重いからと自分で運び出してしまったのだ。そんなに彼はわたしと夫に嫉妬しているのかと思うと、なぜか切ない気持ちになってしまう。
――今日の記念集会で夫の遺言書についての詳細がわかる、って添田さんは言っていたけれど、アキフミも知らないって言っていたし……どういうことなんだろう。
用意された祭壇にはいまの季節にぴったりな涼し気な白と青の花が飾られていた。なかでも目立つのは、薄い紗を纏ったような深いドルフィンブルー……八重咲きのディルフィニウムだ。
賛美歌をともにうたい、故人の想い出に花を咲かせる茶話会の後に、裏手にひっそりと佇む教会墓地にて納骨の儀が行われる。今日の昇天記念日にはわたしとアキフミの他に、“星月夜のまほろば”と契約関係を結んでいる会社のお偉いさんや、生前往診に訪れていた担当医、ヘルパーさんなど、急な葬儀の席に参列できなかった数人が来る予定だ。